infringe×前鬼

□扉の奥
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前鬼side



鈍い色に囲まれた郷



夜叉、千代の故郷。


その景色をぐっと息を飲み、ペットのよな首輪をつけ見渡す。




"餌"な……



俺は今、そういう目で見られとるんやろなぁ?



チラチラこっちを見てはニヤニヤと笑みを浮かべる輩がぎょうさん居る……



しかも



皆、桁違いな妖力や……



『いい?前鬼さん。』



鉄格子のかかった門の前で振り返った千代に



前「………。」



黙って頷く。



"生きて帰れる事を祈るしかない"



その為に




頭は引く

抵抗をみせず

声を発しない




あと……



夜叉の当主に会うてもなんも反応したらアカン……て



反応って何なん?


そんなごつい奴が出てくるんやろか?




『スガヤ様に呼ばれて参った。』


千代の言葉に門兵は気味悪い笑みを浮かべ口を開く



「無比力様……天狗はどんな味でしょう?」


前「………っ。」



反射的に眉を寄せた俺をみた門兵は



「……その目は反抗か?」



舌舐めずりしながら俺の胸ぐらを掴みかかる。



前「………っ!!」



声を出すな……て。


こんなん……無理やろ…




俺が口を開きかけた時




ザッ……

「ぐ……ぅぁ…。」



門兵の片耳が


床に転がる


前「っ!?」



耳を削ぎ落としたのは



『私の持ちモノに触れるとは……命は要らない、と?』



紅色の刀を手にした千代やった……



「……っ」



耳がついとった側面を押さえ苦しそうにしながらも膝をつける兵。



『自分の価値の無さを忘れたか?』


前「………」



千代……それは、本心、か?


「ぉお許しをっ……」



平伏した兵に



『……次は無い。』


短く返した千代は



「はっ……申し訳…」


恐怖に震え詫びを入れた兵を見つめ



ザンッ…




………ボト。


「ぐぁぁぁぁっ!!」


平然と



平伏した兵の


片腕を切り落とした。



前「………っ。」



これが


夜叉としての千代、か?



『………行くよ。』



冷めきった表情の千代の声に頷き



夜叉当主の屋敷へ足を踏み入れる……




前「………。」



その姿は


天狗の郷で姫さんのアイス食っとった時とは



えらい違いやな……




『千代です。入ります。』



分厚い鉄の向こうに声をかけると



……ギ…ギギィ…



ゆっくりと鉄扉が開き




『遣い魔を連れて戻りました。』



床に膝をつけ忠誠の証を示した千代の奥に



前「………っ。」



頭を上げる事を躊躇う妖力を纏った



黒い布に身をつつみ


仮面をつけた



夜叉当主の姿……



ス「……よく戻った。」



前「っ!!?」



その声は割れたスピーカーから漏れるよな機械音……



成る程、な。



"反応"て、こういう事やったんか……。




確かに



顔、身体…声すら伏せる当主。



……こないな異常な光景、見たこともないわ。


ーーーーー
千代side



『遣い魔を連れて戻りました。』



1ヶ月ぶりの我が当主


スガヤ様。



ス「それが……前鬼か。」


前「………っ。」



前鬼さんが黙ったままでいるのは


私の忠告を守ってくれてるから。



『遣い魔には勝手に発言をするなと言い付けてあります。それより……』



遣い魔が見たかった訳じゃないでしょ?


そんなモノに興味を抱くような主じゃない事くらい


わかってんのよ。



『"真"のご用、とは?』


ス「……仕事はしておるのか?」



そんなに


天狗を潰したいのかしら?


それとも




乱れ散っていく命の叫びをご所望ですか?



『仕事はしてますよ?ご命令どおり。』



……ご命令の仕事しか、してませんよ?


だから


苛立ってるんでしょ?



ス「天狗は随分大人しくしているのだな。」


『さぁ……当主と八大の力では?』



探ろうとしても


私は命令に背いた事は致しておりませんよ?


夜叉として、は。



ス「天狗の郷を半壊させたのは……お前だろう?」



そう、前鬼さんに声をかけるスガヤ様。



前「………。」

『彼は私の言い付けしか聞きませんよ?おじーサマ?』



前鬼さんは膝をついたまま、言い付け通りピクリともしない。


本当に……肝が据わってるのね。



ス「罰は与えているのか?」



"おじーサマ"というフレーズに多少の不機嫌な空気を纏わせる我が当主。



『私のペットに私がどんな罰を与えようと、自由では?』


ス「ペットを喰おうとした門兵の耳腕を落としたと聞くが……随分、ペットを気に入っているのか?」



それは揺すぶり、ですか?



『門兵ごときが私の持ちモノに触れるのが気に食わないだけよ……夜叉らしいでしょう?』



選ばれし夜叉として……


貴方のご指示通りに振る舞ったまで。


ニヤリ笑って見せると





前「っく、ぅ……」

『っ!!?』



背後から前鬼さんの呻き声……


彼がつけた鉄首輪が彼の首にギリギリと食い込む…



『スガヤ様っ!!?』


何をっ……!?


振り返って表情を見ようとしたって


見えるのは仮面。



ス「……お前のペットは声を発したな?」



響く割れた声……


『………っ。』



ここは


なんて……狂った世界



前「ぐぁ"……」


『……っ。』



ドサッと倒れる前鬼さん。


私は


何も出来ない……



ス「従順な遣い魔、か?」

『えぇ……』



スガヤ様?


感情の通わない口先だけのやりとりに



貴方も興味ないでしょう?



前「っぐ…っぅ…」



首に巻かれた鉄が、前鬼さんの首から赤い血を流させる……


早く…早くしなければ……



ス「ペットの味は確かめたのか?」


『っ!!?』



ペットの味……って…



『遣い魔を喰え、と?』


ス「兵を斬っても天狗は斬れないか?」




早くしなければ


前鬼さん…本当に死んでしまう。




『………っご冗談を。』



精一杯の笑みは


笑えているのか考える余裕はない。



『ですが、コレはコレで便利な道具。お戯れもそろそろご容赦を。』



私の虚勢を塗りたくった言葉と態度に



ス「……良いだろう。」



スガヤ様は満足したのか


前「……っは。…がはっ。」



血を吐く前鬼さんの首輪を緩めた。


……駆け寄る訳には、いかない。



『前鬼。いつまで転がってるつもり?』



……助けて


叫び声が聞こえる



『さっさと忠誠を示しなさい。』



冷笑を浮かべて言葉を吐く私の




喉の奥の方から……


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