infringe×前鬼

□エサ
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千代side


お母様はとても嫉妬深い人。



母「妾の子の分際で……」



子供の頃はそればかり。


きっと


お父様との間で子供に恵まれる事がなかったから……



父「千代は可愛くて力も強い。文句ないだろう?」



私を可愛がるお父様が私は好きだったけど


お父様が私を可愛がる程


お母様は私を憎んだ……



お母様に喰われそうになってはお父様に守られ



私は


弱さを見せては、この世界では生きていけないと学んだ。



弱さは強さで取り繕い


私は大丈夫なのだと、見栄や虚勢を身体に塗りたくり



窮屈さに満たされながら



ただ、強くならなければ……



強さとは力なのだと。



それだけを信じ、生きた。



嫉妬深い母が喰ってしまったと噂で聞いた私の実の母は会った事もないけれど


写真だけは見たことがある。


弱ければ喰われてしまう事が当たり前の環境では、それはさして珍しくもなく



強さを磨きながら


鬼に喰われるより


鬼を喰う者となるよう



夜叉として、当たり前の教育を受けた。


血の味や肉の味は好きではないけれど



それを美味とする者はアルコールの様に身体に染み付き心を満たすものだと言っていた……



ねぇ。



それって、貴方の心に穴が空いてるだけじゃない?



空いた穴に詰め込もうとするから、いつになっても満たされないのよ。



そう考える私は



ひねくれ者で、夜叉失格。


だからこそ我が当主は夜叉らしく立派に……



そう言い付けるのだろう。


スガヤ様が求めるのは、私じゃなく。



300年ぶりの私の体質。



それくらい、小さい頃から分かっていた……










『これが、ジェラート……?』



目の前には、丸いカップに入った冷たい食べ物。


人間の子が持ってきた人間界の餌



美「少し溶けちゃったけど……皆の分もあるから。」


前「おおきに。」

伯「ありがとうございます。」

3「わぁーい!!」



小さなスプーンで口に入れると



『冷たい……』


前「当たり前や。」


『甘い……』


前「そらそうや。」



そして



『美味しい……。』


美「本当!?よかったぁ!!」



可愛く笑う彼女に、最近は親しみすら覚える。



『匡さんは?食べないの?』



じっとこっちを睨む夜叉の使役、天狗の当主。


家を追い出された幼い頃、世話になってから彼は私を目上の立場だと扱う事はあまりない。


ってゆーか、ほぼ皆無。



まぁ。上も下も私にとってはどうでもいいんだけど……



匡「んな甘ったるいモン食えるか!!」


『美味しいのに……』



人間や妖の血肉より、よっぽど。



匡「それより、だ。いつまで厳戒体勢でいりゃいーんだよ。」

相「今日で二週間程になりますか……」



小刻みに郷を巡回しては夜叉に歯向かう者が出ぬよう、警告を訴えてきた彼らは


『だいぶお疲れですね。』



精神的にも肉体的にも疲れきっているご様子。



匡「お陰様でな。」


『そんなに睨んでも私のせいじゃありませんよ?』



スガヤ様の顔に泥を塗ったのは


他でもない天狗。



伯「さすがにずっと続けるのはしんどいですね……」


ずっと、ねぇ……


スプーンですくった餌に夢中になりながら、口を開く。



『ずっと、は無いでしょう。緊張が続けば民も暴れる……』


匡・八「………。」



押し付けられた圧力に圧迫され続ければ


一定量を越えた時に爆発するもの。



匡「そんときは……」


『仕事しますよ?』



夜叉ですから。



豊「何か新しい策を練った方がいいかもしれませんね。」


『何をしても、いつまでも静かにしてる民とは思えませんけど。』



これは、私の意見。



前「千代、お前……どっちの味方なん?」



ころころ変わる私の意見に惑わされてるのは皆さん。


夜叉として私として


交互に顔だす人格に翻弄されちゃってるんだろうな……



『別にどっちでも。仕事がありゃ仕事するだけですよ。』


前「……喰うんか?」


『血肉は好きじゃないから殺すだけ。』


匡・八「………。」



夜叉にも食べ物の好き嫌いくらいありますよ。


残酷に感じるかもしれないけれど


生きたまま自分の身体が喰われていくよりは、瞬殺の方が優しいでしょう?



『でも仕事すんのは面倒だから、皆さん頑張ってもらわなきゃ。』


相「怠け者のようですね……」


『余計な仕事は無いに限ります。それに、守りたいんでしょ?』



天狗の郷を。



前「……当たり前や。」


『………じゃぁ頑張って貰わなきゃね。』



自分の遣い魔が完全に夜叉につこうとしないのは感心出来ない事かもしれないけど


私は、それでもいいと思う。


それに彼は……なんだか温かく私を見守ってくれるから


自分を認めてくれる人に出会った事のない私には貴重で興味深い。



相「匡様、そろそろ巡回の時間です。」

美「えっ!?もう?」

匡「あーくっそぅ……」



ジロッと私を睨む匡さん。


『私のせいじゃないっていってるでしょ?』

匡「うるせぇな…」



ほぅ。夜叉に対してよくもそんな言葉を……



『行かなくてもいーんじゃない?』


匡「そーゆー訳にもいかねぇだろうが!!」


『朗報かどうかは分からないけれど……』



ほら、感じるでしょ?




『新しい仕事が届いたみたいですね……』



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