infringe×前鬼

□隠れんぼ
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千代side



匡さんのお話を聞きに集まった民



………に、紛れて遠巻きに匡さんと八大さんを見守る。




"見守る"と言えば聞こえはいいけれど




これは夜叉としての監視に近い。




匡「夜叉様は一度お戻りになられた。」



その一言を聞くなり




「匡様!!ご説明を!」

「何故、夜叉様がこの郷に…」



民は不満を口にしようとする。



相「最後まで聞きなさい。」


前「まだ話してる最中や。」



それを圧力で沈める八大さん。



匡「またいつこちらにお戻りになるかわからない。いい子にしてないと喰われるぞ?」



そう。


鬼はここにいるの。




見つけられるかしら?




「しかしっ……」

「支配とはどういう事なのですか!?」

「匡様!!」



この程度は、許容範囲。



完全な抵抗とは言えないもの。



でも




誓いは破られ



忠誠が犯されれば




私は容赦出来ないわよ?




弱者が吠えても



スガヤ様には届かない。




我が当主からしたら、私に一言"喰え"と言えば済むんだから楽なもの。






匡「説明の必要はない。天狗が生きるには夜叉様に従うしかないんだ。」



そう。



まだ、生きたいでしょう?



鬼はここにいるわよ?




匡「今までと変わらん。鬼神への主従はずっとだったろう。」


前「抗おうとして敵う相手やないんや。大人しくしとれば何もない。」


相「匡様に従いなさい。」



いつになく



民に威圧的な皆さんに



「過去が繰り返されたらどうなさるのです!?」

「我々は喰われてしまう!!」




負けじと反発をする民。


だから



抵抗しなきゃ命を繋ぎとめられるのに…




温い思考で自分達のしたことに気づいてない。




また、争いを繰り返すの?



同族じゃなく



相手が夜叉ならその命、救われないわよ?



「どうかご説明を!!」



ソレが無駄なのよ。



匡「とにかく。夜叉様が居ない間も俺達が郷を見回る。気ぃ抜くなよ?」



「匡様っ!!」




どんな時間がムダかわかるでしょう?






匡「……喰われたいのか?」



「「………っ!!」」



静まる民に混ざり



『……ふっ。』



小さく笑みを溢す。



そうやって口を閉ざしてくれてれば



私は何もしないわよ?



呆れた戯れ言も聞かずに済むんだから。



なのに



「ご当主は民を見捨てられたのか!?」


匡・八「………。」


『………。』



現実は上手くいかないものね?



「鬼などに喰われろと仰るのか?」


匡・八「……っ!!?」



残念。



"鬼などに"



それは忠誠が崩れた証。





私の餌はどいつかしら。




辺りを見渡し、夜叉としてターゲットを定める。






『アイツか……』



隠し持った刀に手を添え、天狗の首を取る体勢を整えた時




匡「今言ったのはどいつだっ!!」



匡さんの怒号が響いた……


「「……っ!?」」


『………?』



その迫力に固まる群れから



前「お前やな?」

豊「連行する。」



二人は忠誠を崩した男を連れ去る。



匡「………。」

『………。』



しっかり匡さんと目が合った。



匡「……夜叉様への忠誠を忘れんなよ?冒涜した奴は罰しられると思え。」



……なるほどね。


みすみす私の餌にはさせないつもりなのかぁ。



『………。』



匡さんと仕える八大天狗。


天狗に混ざった視界から見た彼らは



眩しく、凛として……



"この郷を守りたいんや"




うん。





なかなか、格好いいんじゃない?




ならば、約束通り。私は私に許された範囲内で手を貸しましょうか。




胸を借りたお礼に


見逃してあげる。





『ねぇ…もしかしたら夜叉様は隠れて見ていらっしゃるんじゃない!?』



見ず知らずの隣の天狗に話かけると



「え!?」


『夜叉様の力があればきっと可能じゃないかしら?』



予定通りの子芝居は



「それなら大人しくしていないと…」

「もしかしたら…」



あっという間に広がるから面白い。



「夜叉様がどこかから見てる!?」



鬼はここにいるけど、ね?



『抵抗みせたら食べられてしまうかも。』



本当に





……喰うわよ?




小さな一声がみるみる広まり



やがて民は忠誠心を取り戻す。




恐怖、という名のね。




真か否かの区別もつかず



ゴシップに踊る。




大衆とは、そんなものなのよ。


"
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