infringe×前鬼

□鍵の在処
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千代side



"ご当主が好きなん?"



いい所ついてくるけれど



別に、もう好きじゃないの。



過去形よ過去形……



そんな気持ちは遠い記憶の中に置いてきたの。



別に、今更……






『修復には、時間がかかりそうね……』


前「せやな……」



粉々になった建物、ボロボロの木々に山……


その修復に励む、天狗の民。


それを空から眺める……



高みの見物とはまさにこの事ね?



でも



『……行って来たら?』



隣で冴えない表情をしてる前鬼さんに言ってあげる。



前「ええんか?」



貴方は高みの見物してる場合じゃないでしょ?


それに



『そんな顔されたら、仕方ないじゃない。』



罪悪感が滲み出てるわよ。



前「……っおおきに!!」




そう言って、一目散に民の元へ飛んでいく前鬼さん。



彼は大分素直な人ね……



"素直やないなぁ"



なんて、余計なお世話よ。



『私もまだまだだなぁ。』



もっと賢くやったら?



見破られるようじゃ、上手くやれてないのよ。





『はぁ……』



空中でくるんと丸くなる。



天狗の民からの視線が痛い……



まぁ、喰っちゃうぞ宣言したばかりだし、ね?



私を警戒して慎重に行動してくれるなら、それも結構な事だけど……



居心地はよろしくはないわね。



『って、別に居心地の良さなんて求めちゃないじゃない……』



そんな期待を抱くから



少しの傷だけ残った。




夢なんかみてるから儚いの。



声援なんて皆無



そんなモン、最初からありゃしないのよ。



伯「千代さん。」



振り返れば



『伯耆くん……』


ーーーーー
千代side



『…………。』



緊張もするよ……


一対一とは言え、人間の子と話すのは初めてだもの。



美「えっと……」



伯耆くんに呼ばれてお屋敷に戻れば


何故か美沙緒ちゃんと二人きり。



『なんでしょう?』



匡さんの恋人に呼び出されるなんて……



美沙緒ちゃんは非常に言いにくそうに



美「天狗の郷……どうするつもりなんですか?」



核心に迫る



『わかんない。』



匡さんの恋人だから意地悪してるんじゃなくて


それは、スガヤ様が決めることだもの。


私もわかんない……



美「あの……皆を食べないで欲しいんです…」


『………。』




人間ってのは


神に願いを託しすぎじゃないかしら。



弱さを武器にして、毎日毎日煩悩や願いを絶えず口にする……



奉られた寺院でそれを聞き続ける神をどう思うのかな?



とは、人間にはいわないけれど……



『別に心配しなくても、大人しくしてくれてれば危害は加えないわよ?』


美「でもっ……天狗の郷なのに、自由がないなんて…」


『…………。』




この子も、いい子なのね……



皆の為に正論を主張できるんだから。



それは、私だって良く分かってるの。



でもね?鬼神には鬼神の正論があるのよ……



私だって天狗をどうこうしたくない。



でも、私は夜叉として従わなきゃいけない正論がある。




美「お願いします……」

『………。』



二人きりの部屋


低く頭を下げる美沙緒ちゃん。



『頭、あげて?』


美「でもっ……」



この感情はなんだろう……


無性に




腹立つ……。




バンッ

匡「美沙緒っ!!」



勢いよく乗り込んでくる匡さん。



美「匡……」


『………。』




私は、悪者確定かしら?



匡「美沙緒、勝手な事すんなよ!!」


美「だって……」



匡さんに言わずに、夜叉に会うなんて……


喰われる覚悟で、抗議?


それは大した勇気だけど




『美沙緒ちゃん?空論じゃ、話にならないの。』


美「ぇ……?」

匡「千代……」



これで



悪者確定ね。



『……じゃぁ、私はこれで。』



部屋をでると



八「………。」



お部屋の外には八大さん。


複雑そうな顔を並べて



でも


誰も責めたりはしないのね。


ーーーーー
千代side



『あーぁ……』



天狗の郷はきっと私を嫌いだろうけど


私は


好きよ?



空に浮かんだお月様


そよ風



こんなに静かな夜なのに



落ち着かない原因は……



『酷い事言っちゃった、なぁ……』



美沙緒ちゃん、勇気出して声かけてくれたのに



あんな事言って……



『最低だなぁ……』



当たり障りない中途半端な事ばっかりな私より


美沙緒ちゃんの方が、よほど立派じゃない……



『はぁ……』



ため息くらい、つきたくなるよ。



前「千代はホンマ、素直やないなぁ……」


『……っ!?』



振り返れば、いつの間にか勝手に部屋に入ってきてる前鬼さん。



『前鬼さ…っ!?ノックくらいしてよ!!』


前「まぁ、ええやん。」


『良くない!!』



私の話も聞かず、隣に腰を下ろす。



前「姫さんの事気にしとるんちゃうの?」


『ぅ……美沙緒ちゃん、泣いてた?』


前「ご当主が居れば大丈夫やろ。」



『あぁ、匡さんね……』



頷く私に



前「千代が気にしとるのは、姫さんだけやないみたいやな?」



……と、彼はニヤリ。



『だから、何の事よ……』



気づかないフリくらいしてもいいじゃない。



前「せやから、好きなんやろ?ご当主のこ……」


『〜〜〜っ!!』



ビシッ!!

前「とぉっ!?いっ……」



私の正拳突きに


前「な…にすんねんっ!!」



おでこを押さえる前鬼さん。



『口が減らないみたいだから、制裁っ!!』


前「なんでやっ!!……ったく。」



前鬼さんは……


心配して様子見に来てくれたのかな?



前「なぁ、なんで千代はそんな虚像背負っとるん?」


『は……?』


前「無理してまで背負うもんか?」



勝手に


決めつけないでよ……



"八大として夜叉らしく"


"選ばれし夜叉として立派に"



『無理なんかしてないよ……』



ただ、しっくり来ないだけ。


それに



嫌気がさしてるだけ。



前「それは、意地か?忍耐、か?」


『……どっちでもないわよ。』



もし虚像だったとしたなら


私は



その虚像に守られてるのよ。



こんなはずじゃないでしょ?



わかってても



自分と思ってる自分が何人もいて



入りくんだ関係の中



自分がどう在りたいのか



もう良く分かんないの……
"
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