infringe×前鬼

□魅抜く
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千代side


私が襲名した無比力夜叉


それは全ての明王の総帥と言われ、守護の力や敵の降伏に絶大な力をもつというポジション。



そんなモノに、普段大した妖力をもたない私が襲名するなんて



そりゃ良く思わない人もいる。



良い顔して、内心は私の事を良くは思っちゃいないのよ。



だからこそ



選ばれし夜叉として



そのように立派に振る舞えと



お祖父様(当主)は言うけれど



なのに



それに自分が一番しっくりこない。



八大夜叉は居心地が悪いの。



権利を振りかざす事も



誰かの上に立つ事も



向いてないんだもん。




スガヤ様は私になにをさせたいのかしら?



裏があるんじゃないかって、疑うのは悪いクセ?





家を追い出されてぶりの天狗の郷。



「匡様ーっ」

「八大様!!」



そんな声に混じって



しっかり聞こえてる……



「鬼神様だ……」

「夜叉…」

「鬼だ……」



一人巫女衣装で黒の中、一人朱が目立ってる……


いくら鬼が神により近い存在であったとしても



過去に虐殺を繰り返し


命を喰らう鬼は中々歓迎されることはないの。



だって



喰われちゃうかもしれないからね??



奉られていても



本心はそんなところなんでしょうね。



それでも私に低く頭を下げる天狗。


『とって喰ったりしないわょ……』



ポツリ呟く。


夜叉に嫌気がさしてるのは私自身。



でも、定めは変えられないの。



所詮、夜叉は夜叉。



その事実は一生変わらない……



前「千代〜?先々代さんトコ行くで?」


『………。』



随分親しげだけど


皆さん。私夜叉ですからね?



『はいはい……』



夜叉が嫌なくせに、そんなトコにはこだわるんだから



面倒くさいなぁ……



私って。


ーーーーー
前鬼side


『とって喰ったりしないわょ……』



淋しげに呟いた声は


俺には聞こえてたで?



夜叉が天狗を喰う……


俺はそーゆー奴に仕えるんやな……



でも千代は夜叉って感じはせぇへんねん。



なのに



『天狗の郷は我々夜叉の監視の元に置かせてもらいます。』



先々代にはっきりそう言うた千代。



なぁ。なんでそんな事言うん?



当主に仕えるなら、気ぃ向かん仕事もせなアカン。



でも



その言葉は千代には似合うてへんで?



先「久しぶりの再会かと思えば……ご用の向きはそれか。」



先々代の言葉に



『……すいません。』



千代は頭を下げ



『ですが、それとこれとは別です。』



きっぱり冷たくあしらう姿は残酷な夜叉。



残酷、なぁ……


そんな感情を持っとるよな奴には見えへんのや。



ついでに



俺らより神に近い、桁外れな妖力



それも感じん。


『遣い魔もしっかり頂戴しますので。』


先「前鬼で良いならな?」

前「………。」



先々代。


どういう意味や?



『構いません。』


匡・八「………。」



あない嫌がっとったくせに……










前「どんな風の吹き回しや?」



先々代の部屋を出た俺の言葉に



『顔をたててやっただけよ。ありがたく思ってくださいね?』


前「……そうかい。」



ツンとした態度しよって……



"顔たててやっただけよ"



俺の顔をたてても


千代に何のメリットもないやろ?




……なんて、俺のかいかぶり過ぎやろか?



匡「監視、な……」



千代のフレーズに顔を歪めるご当主。



『従ってもらいますよ?』


匡「夜叉には逆らえねぇよ。」

八「………。」



夜叉の監視がついた今


当主とは名ばかりで、天狗の郷を支配しとるのは夜叉に代わる……



匡「嫌でも、な。」


『………。』



今は千代に従うしかないんやな……。



俺は郷を守らなアカン。



だから



千代を信じるしかないんや。


ーーーーー
千代side


私は夜叉


使役の命すら喰らう鬼。



匡「暫く、夜叉様が天狗を観察される事となった。」



匡さんの言葉を聞きに集まった天狗の民は




ザワッ……



その言葉にあからさまにざわつく。



"観察"ねぇ?



「匡様っ!!何故ですか?」

「それはどういう…」

「光栄な事じゃないか」

「守って下さるのだ」

「しかし夜叉様は……」




そう。


夜叉は、貴方達天狗すら喰うわよ?



『匡さん少し温いんじゃないの?』



匡さんの横に並び


民に聞こえる声でうすら笑いを浮かべる。



「あっ……」

「夜叉様……」



私の姿に頭を下げる天狗の民。


忠誠心の証。



見た目だけの、ね。



『天狗は観察ではなく監視下におかれました。』



つまり



『夜叉の支配下となります。一切の抵抗心は抱かぬように。』



天狗に自由なんて無くなったの。


匡・八「………っ」



匡さんは甘いのよ


夢を持たせちゃいけないの。



夢を持たせる程期待された未来は待ってないわよ?




"守って下さる"



平和ボケした戯れ言ね。



「そんなっ!!」

「匡様っ!!八大様っ!!何故です!?」



それにも気づけないのね?



『我が主より仰せつかっている』



現実をみなさい?



『抵抗を見せるならば天狗を喰え、と。』



匡・八「なっ……」

「「………っ!!!」」



現実が見えてきたかしら?



『それを、どうぞ忘れるべからず。』



最後に笑みを浮かべれば



ほら





私は極上の、夜叉でしょう?


"
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