pioneer×前鬼

□夜空に誓いを
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翼side


皆さんと出会って


天狗だということを自覚して



気づけば夜でも暖かさを感じるようになって



季節が変わろうとしていた。


『こんなとこにいたんだ…』


前「翼…」


梯子から強引にお屋敷の屋根に上がると


ようやく探していた姿を見つけた。


夜でも目立つ赤い髪。



座り込んで空を見上げてた。



前「翼、危ないで?」


よいしょ、と屋根に自力で上がった私を見て心配そうに支えようとしてくれる前鬼さん。



心配性だな…


『何してたの?』


前「んー?空をみとった…」


『へぇ…』



鵺という一族のお屋敷から帰ってきてから



前鬼さんはどこか元気がない。


『…どないしたん?元気ないなぁ?』


前「……なんやその喋り方。」


前鬼さんの真似をして喋ってみた私に向けられた冷めた目…



『え…えへ。前鬼さんの真似…』


前「せんでえぇ。」


あら…


失敗…


前「……ごめんなぁ。ちゃんと守ってやれんで。」


前鬼さんは少し悲しそうな瞳でこちらを向いた


『別に前鬼さんのせいじゃないよ…』


私が注意していれば、微かな気配も感じる事ができたはずなのに…


あの時は色んな事に動揺して、天狗じゃない気配にも気づけなかった…



『もぅ。いつまでもジメッとした空気出さないでよ!!』


バシッ


と背中を思い切りたたくと


前「いっ…?」


前鬼さんは少し顔を歪めた。


前「体調、大丈夫なんか?」



…ね。


本当に心配性だよ。



『前鬼さん…将来ハゲるタイプだよね。』


前「はぁっ!?」


ハゲると言うワードに激しく眉をひそめた


『大丈夫だよ?そんなに心配しないで?』



鵺のお屋敷で


あの男が言った事…


"黒い部屋"


"仮面の男"


"記憶を置いてきた"




パーティーの前に、匡さんと八大さんにその話をした。



あの男はその仮面の男に会ったんだろう…



それに、記憶を"置いて"きた…


それはどういう事なんだろう?



仮面の男とは誰なのか




黒い部屋とはどこの事なのか…



検討がつかない。




"呼ぶ"って、どういう事なんだろう…


匡さんは調べてみるって言ってたけど…



私も思い出す努力はしなきゃ…



前「心配したらアカンか?」



『…え?』



前鬼さんの言葉を聞き返す


前「翼の心配しちゃダメか…?」


そう頬に手を伸ばす前鬼さんの指先は


私の傷を優しく撫でた




お願い。そんな悲しそうな顔、しないで…?



ーーーーー

前鬼side


心配で仕方ないんや…



自分でも、なんでこんなに…ってわかっとるのに


尽きない



前「コレ…痛いやろ…」



翼の頬についた刀傷。



許せん。



この傷をつけた奴も



翼を守れんかった

自分も…


『大丈夫だよ。すぐ治るよ?』



さっきから心配そうに俺の顔を覗いてくる翼。


前「…そやな。」



そんな傷、すぐに治したるわ。





『ぇ………』



翼の頬に軽く唇を当てる



『っ!!ちょっ…』



咄嗟に俺の肩を押して離れようとする翼。



強引に翼の腰を引いて



空いた手で動けんよう、顔を固定させる。




こんなん、俺の勝手な自己満足や…




前「……治したるから」




分かっとる。




それでも傷に唇を当てていく



『…っ!!』



唇が触れる度


ビクッと反応する翼を出来るだけ怖がらせんよう、



ゆっくり、優しく…



ついでに


この想いまで伝わればえぇ。


『…っ』



ずっと、俺の身体を押しとった翼の両手が



俺の肩をキュっと掴む。


…アホやな。



拒まんと、俺、期待してしまうやろ…?



前「……ん。終わり。」



ちゅ、


と小さな音を経てて唇を離した。





前「……翼、顔赤いで?」



『〜〜〜っつ!!』



意地悪やったかな。


その一言で翼はより顔を赤く染めた。



ーーーーー


翼side



な、なんでっ…



バクバクと今にも破裂しそうな心臓。


前「…ん。終わり。」


少し掠れた声が耳元で聞こえて



顔を上げる



そんな瞳で見ないで…



あまりに優しい色を見せる瞳に顔が火照る。



前「翼…顔赤いで?」



『っつ!?』



な…


だ、誰のせいだと…っ!!



恥ずかしくて悔しくて手で顔を覆う



『あれ…?』


頬に触れて気づく。


鵺につけられた傷が…



『ない…』


なんで…?


前「言ったやろ?治したるって。」



平然と言ってみせる前鬼さん。



『あ、ありが…と…う?』


そっか…なんか…


恥ずかしいな…




前「傷残ったら大変やろ?」

なんて彼は夜空を見上げた。




『ねぇ前鬼さん。私、剣を習おうと思うんだ…』


前「……は。」


突然の言葉に前鬼さんの頭には"?"が浮かんでる。



『守られるだけじゃダメだって、今日思ったんだ。』


大切なものを自分でも守れるように…



前「……そうか。」


あっさり返ってきた言葉は少し予想外だった。



『なんか…意外かも。反対されるかと思った…』


危ないとか


無理とか…



前「してもええんか?反対。」


『いや、それは…』


困る、けど…



でも匡さんたちに話したら、"前鬼が反対するだろう"って脅すから


私、頑張って説得する覚悟できたんだけど…


考えすぎだったかしら。



前「心得…程度なら出来る方がええやろ。今日みたいに、またいつ危険に合わせてしまうかわからんからな…」


なんて、また少し悲しそうな顔をする。


『だから、それは前鬼さんの…』


せいじゃないよ!!


そう伝えたかったのに…


ズルっ…


『わっ…』


前「っ!!」


立ち上がった勢いで足を滑らせ



『……。』


屋根から落ちそうになった私は空中で前鬼さんにしっかり抱えられていた…


な、情けない…



前「なぁ翼…」


じとっとした瞳を向ける前鬼さん。



前「やっぱ剣は無理ちゃう…?」


あ、呆れられてしまった…

『だ、だめ!!もう決めたんだからっ…』



今は守られてばかりだけど…



いつか貴方も守れるように


強くなるんだ…





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