フェイク×前鬼

□私の選択肢
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名無しさんside



『いらっしゃいませ!!』



変わらず、フロアで笑顔を振り撒く。



客「すいませーん!!」

『はい、伺いますっ!!』



工具箱を担いで走り回るのもいつも通り。



だけど



前鬼さんの姿が無い。

店長が何度か電話をしたみたいだけど、繋がらない……



『お待たせ致しました!!』



皆、風邪か何かかって話してはいたけど……前鬼さん、本当にもう来ないんじゃないかな?



川「名無しさんさん、インカム取れますか?」


『どーぞ!』


川「舞さんと休憩です。」


『了解しました!』



前鬼さんが居ないだけなのに……
妙に物足りない気がするよ。


それに……



『………。』



定位置にあった筈の傷は、額を触っても鏡を見ても見当たらない。


"傷、治させてくれ……"


あの時……傷を治してくれたのかな?
子供の頃から消えなかった傷が、あれで治るなら


前鬼さんはやっぱり、私とは違う力を持った人って事で……同じ人間に見えていたのに、そうじゃなかったって事になる……



舞「お疲れ!」


『お疲れ様……』



休憩室で合流した舞だって、前鬼さんと連絡が取れない事が可笑しいって思ってて……



舞「一体彼はどうしたのかねぇ?」


『うん……』



朝から、こればっかり。



舞「昨日は、何もなかったの?」


『え?』


舞「前鬼さんと。」


『うーん……』



何もないってわけじゃなかったけど……
私も頭が混乱して



『何を話したらいいのか……』



"もう迷惑かけへんから"

迷惑だなんて、一度も思った事ない。
いつも支えてくれてたのは前鬼さんだもの。


"すまん"

何度も謝ってた前鬼さん。
前鬼さんが謝るような事は何もないのに……


"知ってたんやっ"

あれも……
どうしてなのか、よく分かんない。


"もぅ怖がらんでえぇよ"

天狗が怖い、なんて……
っていうか天狗?天狗って……



『あぁ……わからない。』


舞「そればっかりだね?」


『ん〜……』



だって、分かんない事だらけ。



『舞は……信じがたい事が起きたらどうする?』


舞「え?ん〜……信じたいものなら信じる。」


『……舞らしいね?』



信じたいもの、かぁ……。



舞「名無しさんの場合は……」


『ん?』


舞「信じたい"人"だったら、かな?」


『………。』



信じたい人、か……
私は前鬼さんを信じたいけど、前鬼さんがここに居ないのは会いたくないって事なんじゃないかなぁ?


でも……



『とにかく頭ぐちゃぐちゃ……』


舞「もっとシンプルに考えたら?」


『シンプルって……』



黒い翼と、傷と、キスと、好きと天狗……を?



舞「前鬼さんはそんなに信用ならない人?」


『え……そんな事は…』


舞「色々難しく考えるから、わかんなくなんのよ!大切な所はそこでしょう?」


『舞……』



確かに、前鬼さんを信用したいよ?



『でも前鬼さんは……多分私に会いたくないのかも。』


舞「名無しさんは?会いたくないの?」


『会いたい……』



だって、私まだ何も言ってない。

前鬼さんの好きにも、何も言えてない……。天狗の事だって分からない事だらけで……



舞「なら、会いに行っちゃいなよ。」


『ぇ?』


舞「待ってるだけじゃ、このままかもよ?」


『このまま……』



それは……



嫌だ……


もう会えないのも……


何も言えないのも……



『舞……私……』


舞「今日は人手足りてるし、大丈夫だよ。」



ふっと笑ってくれた舞。


うん、そうだよ……



『私っ、行ってくる……!!』



そのまま、休憩室を飛び出した。




"記憶は忘れさしたるから……"


もし本当にそんな事が出来るなら


私は


前鬼さんを忘れちゃうの?



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