フェイク×前鬼

□私の選択肢
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前鬼side



……なんやこれ。



前「舞……大変やったんちゃうの?」

舞「大変でしょう?」



行き先を告げられた時点で、気づくべきやったな……

俺の前には



『ぅう〜……』


前「………。」



酔いつぶれた、名無しさん。

居酒屋の机に突っ伏して唸っとる。



舞「呑みすぎちゃって。」

前「ったく……どんだけ呑ませたんや?」

舞「止めても呑んでたのは名無しさんよ?」



……んな、しれっと言わんと



前「こうなる前に何とかしぃや。」


舞「あら……お酒で名無しさんに迷惑かけてた貴方に言われたくないわね?」


前「………。」



そこを突かれると、耳が痛いのは確かや。
せやけど……
これ以上、近づく事は……



舞「私、終電あるから送ってあげてよ。」


前「いや、俺は……」


舞「……何?本当に名無しさんを振ったの?」


前「……は?」



なんやそれ。
俺が名無しさんを振った?



舞「名無しさんがフラれたって言ってたわよ?」


前「なんでやねん。一言も言うとらん。」



今になっては、関係あらへん。



前「振るも振られる、もどっちもないわ。」


舞「……なんか、絡まってそうね。」


前「ほっとけ。」



自業自得や。
今さら、どうする事も出来んのや



舞「ふーぅん?まぁ、そんな適当な想いなら最初から手を出さないべきだったんじゃない?」


前「……うっさいわ。」


舞「いいんじゃない?その程度なら諦めちゃいなさいよ。私帰るから。」



そう言って、席を立つ舞……



前「おぃ、名無しさんは……」


舞「今までのお酒の失態の恩返しくらいしても、バチは当たらないわよ。」



舞は最後にそう言って笑うと、ホンマに俺と名無しさんを置いて店を出ていった……



前「……なんやアイツ。」


『ぅう〜〜……』


前「………。」



突っ伏したまま、唸り声をあげ続ける名無しさん。



前「お前も、呑みすぎや……」


『……ふふっ』



髪を撫でると、名無しさんは顔を此方に向けニヘッと緩んだ笑みをみせる



前「……しゃあないな。」



ほっとく事も出来んし……



前「名無しさん〜?帰るで〜?」



そうやって自分に言い訳して
俺……何してんのやろ。



ーーーーー
名無しさんside



『ぅ……』



頭がガンガンする……
気持ち悪い……



『み、ず……』



頭を抱えて身体を起こす。



「飲むか?」


『ん〜……』



差し出されたグラスを受け取って、中に入ってる水をごくごく……



『呑みすぎた……』


「せやな。」



そこまできて、初めて気づく。



『ぇ……前鬼、さんっ!?』


前「……おう。」


『あれっ?いつの間に家……』


前「舞に呼び出されて、俺が運んだんや。」



運んだ……って……
ま、舞ぃぃぃっ!!



『ご、ごめ……』


前「ん……なら、帰るわ。鍵ちゃんと閉めぇや?」


『ぁ……』



なんとなく。

本当になんとなく、だけど……



『待って……!!』


前「………なんや」



このままじゃ、本当に会えなくなりそうな気がしたの。



『……天狗、って』


前「………。」



前鬼さんは、私が呟いたフレーズに足を部屋に戻した。



まだ……



頭の中、整理つかないけど……



『……思い出した事が、あるの。』


前「………ん。」



あれは、夢じゃない。
昨日のだって、夢じゃ、ない……



『小さい頃……私、黒い翼を見たよ』


前「………。」


『……誘拐、された時に』


前「……っ」



上手く言葉に出来ないけど……



『昨日、見たのと同じよう……っ』


前「名無しさん……」





ギシッ……




『ぇ……』




ベッドのスプリングがきしんで



前「すまん……」



私は、前鬼さんに抱き締められてた。




ーーーーー
前鬼side



『誘拐された時に……』



俺と同じような黒い翼を思い出したといった名無しさん。



前「……っ」



やっぱし、お前は……


辛くて記憶から消してしまってたんやな。
それを俺が……



前「……すまん」


『ぇ……前鬼さん?』



堪えきれず、名無しさんを抱き締めた。


俺が傍に居ったせいで、思い出させてしまったんやろ?
名無しさんは……辛くて自分で天狗の記憶を消してたんや


俺と同じ、天狗の記憶を……



『前鬼さん?どうし……』


前「知ってたんやっ……」


『ぇ……え?なに?』


前「俺はっ……名無しさんが天狗に拐われそうになった事を、知ってたんやっ!!」


『……ぇ?』



少し、身体を離して
名無しさんの前髪を分ける

額には変わらず傷が残って……



前「コレも……天狗がつけた傷やろ?」


『コレは……』


前「すまん……また、巻き込んでもうて。」


『前鬼さ……』



この傷を消す事は……許されるやろか?
ご当主が記憶を消してまうなら
傷かて無い方が……


そうすれば


名無しさんは二度と思い出す事はあらへん。


天狗も、俺も……。



前「傷……治させてくれ。」


『え?傷……』



ゆっくり、名無しさんの額に唇をあてる。



『っ!?ちょ、前鬼さんっ!?』


前「傷、消してるだけや……」


『な、何言って……』



腕の中の名無しさんはビクッと身体を震わせたが……



前「すまん……」



俺の自己満足やったとしても
好きな女の傷くらい、治してやりたいやんか。



『前鬼、さっ……!?』


前「もう少し……」



俺の身体を押す名無しさんの抵抗を力で押さえ、キスを繰り返す……



適当な想いやない。
ちっぽけな気持ちやない。

……好きなんや。




諦めなアカンと分かってても


唇をつける度
名無しさんへの愛しさが増し……


傷跡が消えても尚、求めたくなる。



いっそ、このまま……その衝動をグッと抑え……



前「……記憶は忘れさしたるから、もぅ怖がらんでえぇよ。」


『ぇ……』



離しがたい温もりから離れ


最後や、と言い聞かせるように額に口付けを落とし



部屋を出た。



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