フェイク×前鬼

□彼と珈琲とチャイム
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名無しさんside



店「ブレーカー上げます!!」



店長のインカムに



柳「アーケード了解」

舞「プライズ了解」

川「メダル了解」



各フロア担当者が応答する。


暫くして店内に照明が灯され……



ヴーッヴーー!!


前「……っんや、コレ」



エラーが発生しました


ヴーッヴーーッ


係員をお呼びください




フロアに響くエラー音の数々。
そして、一斉に手をあげ始めるお客様…



『……始まった。』

前「終わりが見えへんな……」


川「二人は三階をお願いしますっ!!」



川さんの言葉に頷き工具箱片手に走り出す……



『前鬼さん、小さいマシンからお願い!』


前「おぅっ」



三階でもエラーが響きわたり、異常にも見える光景に戸惑っている暇がない……
待ってる人達がいるんだ。



『すぐ対応致します!!お席でお待ち下さい!!』



声を張り上げフロアを走る私は


今、確かに



生きてる……。



ーーーーー
前鬼side



小さく震える手を離すのは嫌やった。


でも……



『……私はカッコ悪い自分が嫌いなんだもの。』


前「……ん。そか。」



名無しさんが踏み出そうとしとるのを
俺が邪魔するわけにはいかん。



『りかさんが大丈夫って言った言葉を信じたい。』


前「名無しさん……。」



りかを信じたいと言うた名無しさんは、確かに何かが違って……



俺は、何も分かってなかったんや……。



そう思ってん。


諦めを当たり前にして、周りと距離をはかる姿……大丈夫やって繰り返す姿……


俺には、名無しさんがそんなに強い奴には見えへんかった。





でも







弱い奴でもなかったんや……



『お席でお待ち下さい!!』



出会った時と同じように工具箱担いで走り回る、名無しさん。
一生懸命で眼を奪う……


妖とは違う美しさ……。



前「……好きやな。」



ホンマ、どうしょうもない程

名無しさんが好きや。


でも……こいつが自分で前に進めるなら
俺はいつまでも傍には居れん。
守ってやりたい、なんて


俺の我が儘やんか。




ーーーーー
前鬼side



前「なぁ、この後時間あるか?」


『前鬼さん……うん、いいよ?』



仕事あがり、名無しさんを呼び出したのはいつもの公園……



前「今日は災難続きやったなぁ……」


『んー…疲れたぁ。』



このベンチに並んで腰かけるのも
だいぶ馴染みになってたんちゃう?



前「なんか飲むか?」



立ち上がる俺に



『待って!!』

前「……。」



名無しさんは財布を持って隣に立った。



前「買うてきたるで?」


『いや、今日はお礼に私が!!』


前「礼って……なんのや?」



その言葉に思い当たる節はない。
どっちかと言えば、今日は名無しさんが頑張ってた日やんか。



『……今日、ちゃんと頑張れたのは前鬼さんのお陰だから。』


前「………。」


『だから、お礼に奢らせて下さい!!』


前「……。」



そう言うなり、俺の返事も聞かんと自販機まで走ってく……


渋々、その姿を見送りながら



前「……困るわ。」



ベンチに腰を降ろし、息吐く。


そんなん言われたら困るわ。
折角、決心したっちゅーのに……


言いにくくなるやんか。



『コーヒーでよかった?』


前「……ん。おおきに。」



戻ってきた名無しさんに手渡された缶コーヒー。



前「……あん時、俺なんでコーヒー飲んでたんやろ?」


『ぇ……?』



手にしたコーヒーに、いっちゃん最初に名無しさんと公園に来た日の夜を思いだしとった……



『あっ!!歓迎会の時の?』


前「水買うたつもりやってん。」


『あははっ……凄い勢いでコーヒー飲んでたよね〜』



隣で笑う名無しさんの顔は、作り物でも仮面でもない


俺が好きでしゃあない本当の笑み。



ホンマに……大丈夫そうやな。



『で?今日はなんのお呼びだしだったの?』


前「んー……」


『前鬼さん?』



ここまで来て迷うのは、男らしくないわな。



前「そろそろ、バイト辞めるわ。」


『ぇ……。』



こいつの記憶を守れただけで、十分やんか。望み通りこいつは綺麗な笑みを見してくれるようになったんや


これ以上、俺が傍に居って話を絡ませたらどーするん?


名無しさんの壊れそうな姿は俺だって見たないんや。


守れたやん、名無しさんの記憶。



『前鬼さん?……なんで?』


前「………。」



そんなん



俺が天狗だから、や。



哀しそうに俺を見る瞳が、俺を困らせる。



前「……考えてたんや。」


『でも……』



この流れも苦しいもんやな。


夕暮れに、どっかから夕方のチャイムが鳴る……



もう、終わりにせな。



前「明日、店長に話そうと思うてな。」


『ちょ、と。……待って?』



これ以上傍に居ったら、アカンのや。


ハッピーエンドやなくても
こいつが笑うててくれんなら、それで良かったはずやねん。





前「名無しさんが好きやで。」


『ぇ……。』



こんだけ名無しさんを想えるんや。それ以外あらへん。その気持ちに嘘はつけん……



前「また……明日、な。」



名無しさんの頭を撫で、公園を後にする。


こんなに好きになるとは
自分でも……思ってなかったんや。




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