フェイク×前鬼

□チョコは甘い?苦い?
2ページ/2ページ

前鬼side



積まれたチョコが崩れる……
そう思った時には、名無しさんの元へ身体が動いとった



『痛た……』


前「お前、何し……」



雪崩をやり過ごして
ようやく気づいてん。

自分が名無しさんを押し倒しとる事に。



『ぁ……』



見下ろした名無しさんは明らかに動揺しとって……


はよ退かな……。


そう思いながら



前「………」



俺の意思に逆らい、身体は名無しさんを求めた



さすがに……



それはヤバイんちゃう?



頭の隅で考えながら、目の前の唇に自分のを重ねようとした時



前「……っ」



視界に、名無しさんの額についた傷が映った。



その傷は



俺ら天狗がお前に……



前「………すまん。」


『……っ』



妙に胸が痛んで
そこに唇を這わさずには居れんかった……












でも……



『ぅ、わぁっ!!?』



名無しさんの声と


ドンッ!!

前「……っ!?」



身体が突き飛ばされて、我にかえる。



前「ぁ……」



……俺、何してっ!?



『ぜ、前鬼さっ!?』


前「あ、いや……」



ヤバイやんか!!

キス、て……!!

それに。これで傷まで治してもうたら、人間やって言えん……



前「ちょ、チョコがついてたんやっ!!」


『は……?』



自分でも苦しいと思う言い訳に、名無しさんは当然眉を寄せ……



『チョコ……ですか?』


前「せやっ!!チョコとっただけや…っ」



無理やって。
それは苦しすぎる言い訳やって!!

どこに好きでもない女のそれを舐めて拭うアホが居んねんっ……!!



『そ……そっか……?』


前「……ぇ、おぅ。」


『チョコ、か。』


前「せ、やな……」



苦しい言い訳を信じようとする名無しさんの額には、まだ傷が残っとった……



『つ、続き……やろうか。』


前「せや、な。」



名無しさんは、俺の苦しい言い訳を信じたんやろか……?




"相手にされてないんじゃないか?"



豊前の言葉が浮かぶ



前「………。」



……それはそれでヘコむわ。


でも……。
俺が傍に居ったら、名無しさんが天狗を思い出してまうリスクが上がるんちゃう?



『これ……終わるかなぁ?』


前「どやろな……」



俺……



コイツの傍に居ってえぇんか?



どんだけ好きやから守りたいって……傍に居って最終的に苦しめてまうなら



居らん方がえぇんちゃう?



ーーーーー
名無しさんside



『これ……終わるかなぁ?』


前「どやろな……」



どきどき、心臓が凄い速さで動いてる……。
前鬼さんの唇が触れた額に、まだ感触がはっきり残ってて……。



『………。』


前「………。」



疑い過ぎるのも良くないと思って頷いたけど……。
チョコ……本当についてたのかな??



『ぁ……えと。』


前「お、おぅ……」



この気まずい空気、なんとかしなくちゃ……





ジーー……



『ん……?』

前「……なんや?」



インカムから、突然聞こえだしたノイズ。



ジ、ジジッ……



『前鬼さんも、ノイズ?』

前「おぅ。なんやえらい……」




プッツン。



前・名無しさん「えっ……?」



ノイズが大きくなって、切断されるような音と共に……静けさが増した。



前・名無しさん「………。」



なに……?

ベルトからインカムを外して、電池を確認。



『電池切れじゃ、なさそう……』


前「俺もや……。」



二人で首を傾げていると



ブツンッ……



前・名無しさん「……!?」



大きな音と共に、倉庫が暗闇に包まれた。



胸の奥が……



ざわつき始める



『……っ。』



でも……



前「名無しさんっ…、大丈夫か?」


『ぜ、んきさ……』



震えだした手を、暗闇の中で貴方が繋いでくれたから……



『なん、とか……』


前「……ホンマやな!?」


『ん……。』



なんとか、大丈夫そうだよ……?



前「また接触か?」


『さぁ……』


前「……足元、気ぃつけろ」


『ん……』



そのまま、倉庫の扉まで向かってスイッチをパチパチとやってみても



前「……っくそ。」


『ダメ、かぁ……』



倉庫の照明が戻る気配はなくて



『……もしかして』


前「……名無しさん?」



キィィ……

ゆっくり扉をあけると



前「こ、れは……」

『停電……?』



廊下も、フロアも真っ暗で……
灯りが見えない。



深い黒に



『……っ。』



背筋に悪寒が走る……



どこまでも続く、黒の海



前「名無しさん……取り合えず光が入る所に……」


『大丈夫っ……』


前「せやけど…震えとるで?」



まるで、取り残されたような空間に



なんの音も聞こえない




『フロア……行かなきゃ。』


前「は?」


『大変な事になってる……』



……逃げちゃだめなんだ。


今逃げたら
せっかく好きになり始めた世界で、また自分を嫌っちゃうかもしれない。



前「無茶やって!!んな震えた状態で……」


『手……もぅ少しだけ、握ってて?』


前「それはえぇけど……」


『いつかは……乗り越えなきゃいけないんだよ……』


前「……。」



頼りにならない薬を飲み続けて、そんな自分が嫌になるくらいなら……


踏み出さなきゃいけなかったんだよ。



『前鬼さんもいるから……大丈夫。』


前「……無理やったら言うんやで?」



ぎゅっと、繋がれた手に力が込められる。



『ん……。大丈夫。』



だって……
私はこの世界を好きでいたい。


貴方を好きな私を、好きになりたいよ。



踏み出すなら……



今しかない。



.
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ