フェイク×前鬼

□人形は負けず嫌いでした
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名無しさんside



『……すごいね?』


前「俺を誰やと思っとるん?」


『………。』



私の隣で妙に自慢気な前鬼さん。
毎度の事ながら、一回見ただけで作業を覚えられるんだから……


うらやましい。



『じゃあ……私、メダル集めてくる。』


前「俺やろか?」


『ん〜…最初だし、カウンターに専念して?』


前「なら、なんかあったら呼ぶんやで?」



……なんて、これじゃあどっちが先輩かわからないなぁ?



『はぁい!』



でも、そんな心配も意地張らなければ、温かい優しさなんだなって


貴方のお陰で気づけるようになったよ?



『よいっしょ……』



マシンの鍵を開けて、中からメダルを回収する……
メダルが無いって事は、それだけ店内のマシンにメダルが入ってるって事だし



ザラザラ〜……



『ふぅ……』



メダル回収ケースを台車に積んで回収を繰り返す。この作業がなかなか腰に負担をかけるのよね……

でも、私も前鬼さんには負けてられないから頑張らないと……



そう思って次のマシンの鍵を開けて



ザザザザザザザァァ……


『……っ!?』



固まった。



鍵を開けるなり、マシンの中に溢れてたメダルが雪崩の様に私を囲む……



『……やってしまった。』



回収ケースに収まらなかったメダルが中々回収されないまま、マシンの中に蓄積されちゃってたんだろうな……



『名無しさんです……前鬼さん、インカム取れますか?』


前「どーぞ!!」



取り合えず、目の前の惨状を報告……


あぁ、先輩として頑張ろうと思ったばっかりだったんだけどなぁ?






前「……えらい事になっとるな。」


『うん……。』



私の元に駆けつけた前鬼さんは、周りを囲むメダルの海に失笑。



前「回収ケース足りるか?」


『足りない……』


前「なら倉庫から持ってくるわ。」


『お願いします…』



一箱15キロだとして……
五箱くらいは余裕で回収出来ちゃう量ね……


これでカウンターのメダルもストックは作れるだろうし……



前「名無しさん、持ってきたで。」


『ありがとう……』



三階の倉庫から降りてきた前鬼さんの手には、空の回収ケースが二つ……



『……ケース、足りないんじゃない?』


前「ん〜…そやろな。」


『そやろな。って……』


前「名無しさん、三階から持ってきてくれん?」


『………。』



それじゃ、前鬼さんが取りに行った意味が無いんじゃ……?


いやでも……これは私のミスだしなぁ。



『行ってきます…』


前「おぅ。」



前鬼さんに雪崩を任せ、三階へエスカレーターを上がる。


じわじわ見えてきた三階のフロア



『ぁ………。』



奥の方に見えた



りかさんの姿……



『休憩中のはずなのに……』



何してるんだろう?

そんな考えは、彼女の手元を見ればすぐに理解できた。


雪崩てしまったらしいメダルが散らばってたから……



『………。』



その姿にどう声をかけるのが適切なのか悩んだ私は



……パタン。



目的の回収ケースを取りに、倉庫の中へ姿を消した



ーーーーー
名無しさんside



いつもお人形みたいに、ニコニコ可愛らしい笑顔をカウンターで振り撒いてたりかさん。


年下の、半年先輩スタッフ……


口癖は、私を持ち上げるような言葉で、
何かあれば名無しさんさんだからってフレーズを口にする。


それが余りに重荷で、いつしか私は周りのその言葉にストレスを感じてたけど……



『………。』



あれは……りかさんなりの強がりだった?


目の前に積まれた回収ケース。
それを手に取る




"りかはカウンターばっかりだし…"



よく似た私に、私が求められていたように。
りかさんにも似たような重圧があるんじゃないかな?



『……考えたこともなかったな。』



いつもカウンターで笑顔を振り撒く事を周りから望まれていたりかさん。

それに彼女が応えながら


期待されない事に


劣等感を感じてたとしたら?



『………。』



少し多めにケースを抱え、倉庫を出る。


向かう先は
りかさんの元に、決まってる……



"なら、頑張るしかない"



彼女は本当に、頑張ってなかった?




『……りかさん。』


り「ぁ……」


『新しいケース、持ってきた……』


り「……ありがとう。」



恥ずかしいな、私。
今まで本当に自分の事ばっかりだったんだなぁ……


どれだけ必死にやっても、努力を認めて貰えるって訳じゃない。



『……さっき、ごめん。』


り「ぇ……あ、りかも……」



でも、休憩削ってまでメダル回収して
彼女は私が気づかなかっただけで、カウンターでも人知れず頑張ってたのかもしれない……


私が自分でいっぱいいっぱいで、周りを見てない所で……努力してたのかな?



『休憩、いいの?』


り「りかの、責任だし……」


『そか……』



二人で黙々とメダルを拾う。


認められるとは限らないけど。
それに気づけたのに、気づかないフリは私には出来なくて


でも、私の半端な立場で
りかさんに掛けられる言葉なんてないから……



『ありがとう。助かった……』


り「……。」



ちゃんと、伝わってるよ?
そうとしか言ってあげられないけど……



り「……良かった!!りかでも役に立てた?」


『……当たり前じゃない。』


り「ふふっ……」



思ったより負けず嫌いなお人形さんの可愛い笑顔が見れたなら……

その気持ちも少しは伝わったのかな?





前「おぅ。お帰り。」


『………。』



三階の雪崩を片して二階の雪崩に戻ると、こちらはどうやらケース待ちだったみたいで……



『三階、片してきたよ?』


前「ん、そか。」


『………。』



彼がケースを少なく持ってきたのは
あれを見せる為だったんじゃないかって疑惑が浮かんでならない……



前「なら、こっちもちゃっちゃと終わらせるか。」


『うん。』



本当に……


貴方はいつも私に大切な事を教えてくれるね?



"俺やったらえぇな。名無しさんの相手……"


『………。』



あれだって……


貴方の素直な気持ちだった、って。信じたくなっちゃうよ。



あんなに、胸が締め付けられるような恋心が誰かに抱けるなんて



今までの私なら、考えもしなかった。



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