フェイク×前鬼

□羊の遠吠え
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名無しさんside



前鬼さんの腕の中で、山崎のおばぁちゃんがもう居ない事を


二度と会えない事を


実感した。



これが現実なんだ……





前「……大丈夫か?」


『………。』



本当に汚れちゃってたのは
私の方だったんだ……


結局……


いつも


いつもいつも……


振り返れば




人のせいにして、仕方ないって努力もせずに諦めて……



逃げてただけ



『……こんなものに頼って』


前「名無しさん?」



制服のポケットには余分に持った薬



『……こんな自分っ』



グシャッとそれを握ると
アルミのシートが肌に刺さって


涙みたいな血が溢れた



前「……っに、してんのやっ!!」


『ほっといてっ!!』


前「名無しさん……」



無理矢理、私の手を開かせようとする前鬼さんに叫ぶ



『私が消えちゃえばよかったのよっ……!!』


前「なっ……!?」



だって、そうでしょう?


柳くんの好意も信じられない

舞の事も疑って

間違ってないからって、周りに当たって



『結局、薬があってもなくても……私には無理なのよっ』


前「………。」



どんなに嫌な薬をのんでも

次々やってくる波に拐われて

強くなれないから弱さを隠して……

言い訳して



『こんな私、誰も求めちゃくれない……』



私だって


こんな自分要らない。


貴方を照らす自販機の方が、よっぽど誰かに求められてるよ……



あぁ、なんて私はちっちゃくて醜いんだろう?



前「えぇ加減にせぇっ!!」


『……っ!!?』



なんで


なんでそんなに怒るの?



前「……手。離せ。」


『……。』


前「離せ。」


『……っ。』



前鬼さんの声の低さに
薬を握っていた手をほどく……

滲んだ赤い液体を見て彼は大きく肩を落とした



前「……なにしてんねん。」


『………。』


前「こんなん見たら、ばぁさん悲しむで?」


『……っ!!』



傷だらけの私の手を包んでくれた優しい温もり……笑顔……



前「もっと自分を見たり?カッコ悪いで。」


『ーーーっ。』



あの時は……"かっこええやん"そう言ってくれたのに。



前「もっと、自分と向き合うたり。」


『向き合うって……』



これ以上、嫌いになれる自分を見つけられないくらい


自分が嫌なのに……?



前「俺、そんな信用ないか?」

『ぇ……』


前「俺は、名無しさんを見てんねん。」


『………。』




面白くない時程笑ってるな?


気丈なフリも努力も気づけんやつはほっといたらえぇよ


自分の事も気にしたり


それは、本当に大丈夫な時に使う言葉や




『ぁ……』



そうだよ


貴方は最初から……私を見つけてくれてた。



前「怖いなら傍に居るから。」





弱い自分を認められない


非難されるのが嫌で


周りの眼ばっかり気にして……



そんな見られてもいないのに。



前「嘘は言わん。」


『……っ!!』



それでも貴方は……


試行錯誤、誤魔化そうとする私を見つけてくれてた。



『ごめ……』



仮面をつけてイメージを演じて

何も見ようとしてなかったのは

何かを望もうとしてなかったのは


私の方だった……




素晴らしく下らない日々を苦労しないで過ごす為に……?



『ごめん、なさいっ……』


前「名無しさん……」



笑顔を振り撒けば振り撒く程、自分の心に距離が出来て
自信のない自分を影に隠して、そのうち、どっちが私だったか分からなくなっちゃった……


辺りの様子を伺いながら、ここから先は進入禁止だってエリアを作って


少しだった筈の誤差が気づいた時には大きくなってしまって、重たかった。


どうせ


今さら


仕方ない


幾つもの暗号を繰り返して

麻痺した感覚が周りと同じでなければいけない、と錯覚させた……



どこで間違っちゃったんだろう?


下らないと嘘をついて


でも誰かに気づいて欲しくて



自作自演の迷路に迷ってしまった……



前「名無しさんは、名無しさんやんか。」


『……っ』


前「俺の前に居るのが、名無しさんやろ?」


『……っく。』



私を見付け出してくれる


優しいノックの音に、泣いてしまう……



これも現実なんだ。






問題です。

この世界を生きる上で必要なモノ。その正解を求める事は本当に必要ですか……?




前「名無しさんが自分が嫌や言うても、俺は求めるで?」


『……っ。ぜ、さ……』


前「あ〜…よう泣くなぁ?」


『っく。だっ、てっ……』



包んでくれる温もりが教えてくれてる気がして……



わからないモノにこそ


尊い価値があるんじゃないかって……。






久しぶり。

弱くて惨めで情けない、私……。




質問です。

答えを探しても、世界は変わりません。
でも自分を変える事はできます。


貴方はどうしますか?




前「ん。傍に居るから。」


『ぅ、んっ……っ』



子供みたいに泣き続ける私の髪を撫でてくれる彼の手に



失望ばかりでも眼を開く優しさや暖かい価値があるなら、私は信じてみようと思えました



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