フェイク×前鬼

□簡単でしょう?
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前鬼side



『シフト回収しまぁす』


「「はぁい」」



名無しさんの号令でシフト表を持ち寄るスタッフ。



「ごめん、今日忘れちゃった!!もう少しまって?」



シフトを忘れた奴もそら居る。
前ならにこにこ笑って誤魔化しとったけど



『期限今日ですから…帰りまでに出さなければ出勤なしです。』


「「………。」」



にこにこ笑うて、突っぱねる。
まぁ……忘れた方が悪いんやろうけど



「またまた、冗談を……」


『期限遅れて店長に怒られるの嫌だし。諦めてください。』


「「………。」」



にこにこ笑う名無しさんに、誰も何も言えん。同じようで、何かが違う……
せやけど、言う事が間違っとる訳やない







『カウンター変わります!!』


り「ごめぇん、まだ終わってなくて……」



りかとカウンターを変わる時かて



『四時間なにしてたの〜?』

り「ごめんねぇ!!頑張ったんだけど……」



変わらん様子のりかに、名無しさんも前と変わらずにこにこ笑いながら



『なら、もっと頑張ってよ。』


前・り「………。」



りかの声を聞き入れようとはせん。



り「ご、ごめん……休憩いってくる」


『いってらっしゃい!!』



そそくさと去ってくりかに何事もないように手をふる……



前「なぁ……今のは言い過ぎちゃう?」


『え?なにが?』


前「りか、ヘコんどったで?」


『………だから?』



笑顔が、笑うてへん……



『間違った事いってる?』


前「……いや」


『なら、仕事仕事!』


前「おぅ……清掃してくるわ。」



間違った事は言うとらんが……
俺が知っとる名無しさんやない。


あれじゃ、よく似た別人みたいや……



ーーーーー
名無しさんside



ここが私の戦場


自分 対 他人が存在する場所



鼓動が止まるまで解放される事ない終わりない長い戦い




"名無しさんさんなんだから"



耳の底にこびりついた声・言葉



期待してくれていいよ

イメージを重ねてくれていいよ



私は振り分けられたポジションをこなし続けるだけ


選択肢から選んだ答えを声にするだけ


自分を偽って上手く演じれば非難される事もない


嘘を着飾れば胸も痛まない


笑うべき所で笑って

望まれた所で望まれた動きをすればいい



そうすれば、この世界は大体やっていける。


大体、そんなもの



期待してもいないし、ヘコみもしない


私は誰にも見えてないんだから


仮面に吐いた言葉を気にする必要なんてない



生きていく上で賢さが必要なら、利口なフリして振る舞えばいいだけ



前「りか、ヘコんどったで?」


『………。』



"私名無しさんみたいに速く出来ないもん"


彼女は私にそう言ったから
なら、もっと頑張ってよ。そう返しただけ。



『……間違ってる?』

前「……いや」



頑張れば、誰かが認めてくれるとは限らないけど……羨ましいと思うなら、頑張ればいいんじゃない?


頑張りたいならね?


代わりに、"何でもそつなくこなす"私を演じてあげるよ



店「名無しさんさん、インカム取れますか?」


『大丈夫です。』



それでも痛みを感じてしまうようなら



感情がなければ楽なんだから


感情を捨ててしまえばいい


とても簡単な事でしょう?














仕事を遅番に引き継いで、前鬼さんと皆が集まった休憩室を目指す。



り「そうそう!!」

川「名無しさんさん?」



休憩室から漏れて耳に届く声



前・名無しさん「………。」



なんとなく、自分の名前に立ち止まった



「つか、俺本当にシフト入ってないんだけど〜」


「まぢ?」


「ありえねぇ!!少しくらいいいじゃん!!」


愚直ってるのは、シフトを忘れた彼だろう。自分のミスを逆恨みして……



り「今日、もっと頑張ってよって言われちゃった〜」


川「名無しさんさん?」


り「うん。精一杯頑張ったんだよぉ?」



『………。』



お人形さんは、そんなにプライドを傷つけられちゃったのかな?
呆れる嘘を言うなら、その口閉じててよ。



前「あ〜……名無しさん、も少ししてから入る、か?」


『え?なんで?』



そんなに心配しなくて大丈夫だよ。



『失礼しまーす。』

前「……」



笑顔で休憩室の扉を開ける。



「「ぁ………。」」



一瞬、固まる空気。



柳「あの……名無しさんさん、今の話聞いて……?」

「「………。」」



それを聞いて、どうしたいの?
そんな聞かれちゃ嫌な話なら、しなきゃいいんじゃない?
責任持てないなら、言わなきゃいいよ。



『……聞こえた部分もあるけど?』

前「………。」



愚痴ってその愚痴が次に活かせるといいね?
羨ましがってるだけが精一杯で何もしないなら、やっぱりもっと頑張りなよ。



「ご、ごめん……」

り「あの……」


柳「皆悪気があった訳じゃないんですよっ……!!」



そんな気まづそうに慌てなくても



『いや……別に気にならないからいいよ?』

前・舞「………。」

「「………。」」



悪気がない陰口が、悪口じゃないならなんなのかはわからないけど……

別に仲良しごっこしに来てる訳じゃないし

もともと興味もないし……



まぁ、聞かせて貰えるとするなら




『そんなに僻んで皮肉を吐いて何がしたいの?』


前・舞「……名無しさん!?」

「「………!!?」」



期待通り演じてあげてるじゃん。

今度は何が不満なの?



『……なに?』

「「………。」」



刺すような視線を向けられても、わかんないよ。どんな言葉を望んでるの?

いくらでも選んであげるよ?



舞「ちょっと、名無しさん……」

前「やめぇや。」


『え?……なにが?』



皆して苦い顔して……
私なにか間違った事いってる?



「りかさん、大丈夫?」

川「名無しさんさん、りかさん泣いちゃいますよ…」

り「大丈夫、だよ!?」



なにそれ。




『………ふふっ。』


前「名無しさん?」

舞「どうしたの?」


「「………。」」





私は加害者でも被害者でもどっちでもいいけどさぁ?誰が、どっちが悪いか……それ決めてどうしたいの?


そんな眼でみて……




あぁ、そうか。


待ってるのはこの言葉?



『ごめんね?りかさん、言い過ぎちゃったね……』


り「ううん……りかもごめん。」



あとは愚痴ってた彼?



『シフトは店長に聞いてみて?多分入れる筈だから。』


「俺もごめん……シフト気を付けるよ。」

『うん、お願い〜!!』



にこにこ、いくつもの仮面を取りかえる。


休憩室から漏れて耳に届いた声が



心まで届くとはかぎらない



ほら


感情を捨ててしまえば



痛みは感じないで済んだでしょう?



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