フェイク×前鬼

□鏡よ鏡。貴方はどちら様?
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名無しさんside



ストレスは確かに溜まってるかもしれないし……たまには、息抜きだって必要かもしれない。

そんな事まで考えてくれてたのは嬉しかったよ?だけど……



『結局、こうなったか……』

前「名無しさん〜!!」



赤い髪に赤い顔して上機嫌な前鬼さん。
えぇ、やっぱり酔っ払いました。



『もぉ〜!!飲み過ぎないでねって言ったのに……』

前「大丈夫やて!!酔ってへんもんっ!!」


『………。』



"もんっ"って。完全に酔ってるじゃない……。



『前鬼さん、タクシー呼ぶからちょっと待ってて……』


前「名無しさん送るで!!」


『いや……私は大丈夫だから…』


前「いーやーやーっ!!」

『っ!!!?』



突然、叫んだ彼に少し驚く……。
ただでさえ目立つ人なのに、余計注目がっっ!!



『ぜ、前鬼さんっ!!声大きい……』


前「やって、心配やんか!!」


『いゃ……。』



貴方の方が心配ですよ?



前「名無しさん危なっかしいねん!!」


『………。』



確かに、迷惑かけてばかりだけど。
今の貴方に言われたくないよ……



前「うしっ!!送ったる!!」

『え〜……。』



何故か気合い入れる前鬼さん。
駄目だ……何言っても聞いてくれそうにないよ……。

今はお言葉に甘えて、家の前からタクシーに乗って貰おうかな?心配だもの。



前「名無しさん〜、あんま無理したらアカンよ?」


『はいはい……』



私の隣を歩く前鬼さん。
上機嫌で話始めた彼に私はただただ相槌を繰り返す。



前「名無しさんはなんっか危なっかしいねんな!!」


『うんうん。』


前「ほっとけん!!」


『はいはい……』


前「でも好っきや!!」


『………。』



なんか………恥ずかしい、かも。



『ぜ、前鬼さ……わかったからちょっと静かに……』


前「なんでや?嫌なん?」


『あの……えっと…』



これで次の日には言ったこと覚えてないんだから、タチが悪いな……



前「難しく考えんでえぇよ?そのまんまや!!」



なんて緩い顔して笑う……少し幼い笑顔をみせる彼はちょっと可愛い。
でも"そのまんま"だなんて



『前鬼さんいつか女の子に勘違いされて泥沼になっても知らないからね?』


前「なんでや〜?好かん奴には言わへんで?」


『だからぁ……』



……それが、厄介なんでしょう?
なんて隣でため息つくと



前「なら、名無しさんは?」


『へ?』



前鬼さんが顔を覗き込んできた。



前「なぁ。名無しさんは勘違い……してくれへんの?」


『ーーー…っ!?』



私の顔を覗き込む、前鬼さんの極上の笑みに


心臓が跳ねた……。



『なっ、にを……!?もぅ。酔っ払いすぎだよ!!』

前「せやから、酔ってへんて。」


『……っ!!?』



慌てて平静を装うけど、前鬼さんが踏み出した一歩。近づいたその距離にさらに心臓が跳ねる。



『や、やっぱり酔って……』

前「危ないで……?」


グンッ…

『わ……!?』



ポスン、服に埋もれ空気が抜ける音。
気がつけば前鬼さんに腕を引かれて胸の中……。



『なっ……!!!??』



その横を


プップー……!!



前・名無しさん「………。」



車がスピード出して通りすぎて行った。



『………。』



な、なんだ……びっくりした。
車かぁっ……!!



『あ、りがとぅ。』

前「ん……。」



慌てて前鬼さんの腕からすり抜ける。
弱ってる心臓に、これは刺激が強すぎるよ……っ!!


抱かれた肩が、ほんのり熱を持つ……。



『前鬼さん、ちゃんとマニュアル覚えてきてね?』


前「忘れとったわ……」



咄嗟に、気にしてないフリをしたけど……車道側を歩いてくれる前鬼さんに顔を合わせる事が出来ない。


だって今眼が合ったら……
勘違いしちゃうかもしれないでしょう?



ーーーーー
名無しさんside



『ただいま……』



一人暮らしのマンション。
だから返事が返ってこないのは当たり前だけど、なんとなく誰も居ない部屋に声をかけるのが癖になってる。


明日も仕事なのに……
前鬼さんの押しに負けてこんな遅くまで飲んじゃったなぁ。



ヴウ"ッ……

『……?』



携帯の振動に眼を向ければ、待ち受け画面にはさっき別れたばかりの前鬼さんの名前。



『"また明日な!!"って……』



さっきもそう言って別れたのにね?



『ふふっ……』



小さく笑って"ご馳走さま。おやすみ!!"と返事を送る。
今日知ったばかりの前鬼さんの連絡先……。まさかこんなに早く使うことになるとは。


思えば……ペース乱されっぱなしの彼との距離はずっと近づいた気がする……



"一生懸命……"



『………。』



前鬼さんは、やっぱり私を誤解してる所はあるけど……



『不器用、か……』



彼の言葉が胸に響いた。



"危なっかしいねんな"

確かに、不審者に酔っ払い……発作。前鬼さんにはあまり先輩らしい所は見せられてないのよね。



"ほっとけん"

だから、あれは心配させちゃってるって意味で……



"でも好っきや"


『………。』



………あれは?


"勘違いしてくれへんの?"
あれは、なんだったのかな?


嘘は言わなくても
冗談……くらい、言うよね?



『前鬼さん……酔ってたしね!!』



メイクを落とそうと洗面台の照明をつける。鏡に映る自分の姿

勘違いなんて、恐れ多い!!
そう思ってるのにまだ、肩を包んだ前鬼さんの大きな手の熱が消えなくて……


顔も、赤い……。



『お酒のせい、だよね?』



鏡に映る自分に尋ねたって、答えは貰えない。向かい合わせの自分。

向こう側で私そっくりの彼女は何て言うだろう?



前鬼さんは……私を見てる?貴方を見てる?



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