フェイク×前鬼

□戦場はエコロジーを目指してます。
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名無しさんside



『名無しさんです。川さん、前鬼さんと一緒に休憩上がりました!!』



休憩からでて、今日の2、3階のメダルフロアを仕切っているメインポジションの川さんにインカムを入れる



川「了解しました。僕とりかさんと交代です。」


『了解しましたぁ。』



なんて返事をして、気づく。

僕と、りかさん……?
あれ?フロア、私と前鬼さん二人だけ……ってことかな?



この広い2フロアを?
私と、新人さん…………だけ?











え、鬼……ですか?




川「ごめん、名無しさんさん。休憩回し遅れちゃって……」

『いぇ……頑張ります。』



大丈夫、じゃないけど……振り分けられたポジションをまっとうするしかない。



『りかさん、カウンター変わります!!』



気を取り直してカウンターへ向かうと、お客様のいないカウンターで何やらバタバタと忙しそうな


お人形、りかさん。



り「ごめん!!まだ、開店作業終わってなくて……」


『えっ!!?だって、もぅ13時だよ?』



9時からの始業時間からどんなに不慣れなスタッフでも、3時間はかからないのに……


いつもカウンターに入ってるりかさん。
四時間も何やってたのっ……!!?




り「なんか色々あってぇ……」


『色々って……』



悪びれなく、笑顔で身体をくねらせてぶりっこするりかさんに呆れた眼差しをむける私……



り「しょうがないじゃん。私名無しさんさんみたいに早く出来ないんだもんっ!!」


『……。』



ぷりぷりと怒り始める。
わかったわかった……わかったから!!私が悪かった!!



『もぅ、休憩いっといで?』


り「ひどぉい!!謝ってるのにぃ〜!!」


『怒ってない、怒ってないから!!』


り「本当にぃ〜?」


『うん。』



そのぶりっこにも、慣れてるからね?
ちなみにりかさんは年下だけど、半年私より先輩です。


り「え〜?絶対怒ってるよぉ!!ねぇ、前鬼さぁん?」


前「え?あ〜……」



あ……あぁぁぁぁぁあっ!!!!
さっさと行ってくれないかなぁ〜っ!!?



前「……早よ休憩行かなアカンのちゃう?」



前鬼さんの言葉に



り「うふふっそうだね!!いってきまぁす!!」


『いってらっしゃい……』



ニコニコ機嫌を戻してカウンターから去っていく、りかさん。


今の5分間を返して……
無駄に疲れた。


フロアだから、ため息はグッと我慢して終わってないカウンター作業に入る。



『前鬼さん、2階と3階の清掃を確認してくれる?』


前「なぁ……それ、名無しさんならどれくらいで終わるん?」


『え……』



カウンターの開店作業?



『30分。』


前「っ!!?はやっ……!!」


『どーも。ほら、清掃清掃!!仕事は腐るほどあるんだから……』




……だって、必死に努力したもの。認めてもらおうと思って。


でも……


"名無しさんさんみたいには出来ないもん"




『……別に』



同じ早さで終わらせてなんて言ってないし、思ってもない。
私だって……始めからその早さだった訳じゃない。


そうなるべく、努力しただけ。


そこに、誰も気づかなかっただけ。
"名無しさんさんだから"
出来て当然。当たり前……



『そんなわけ、ないじゃない……』




一人呟いた声は



いつだって、誰にも届かない。





店「名無しさんさん、インカム取れますか?」


『……っ。はい、大丈夫です。』




悔しい気持ちはグッと飲み込む。
こんなことでヘコんでたら……やってけないのよ。




店「照明の交換、進んでますか?」


『名無しさんです。すいません……清掃とカウンター作業を終わらせてました。』


店「あ〜……照明交換もお願いします。」


『……了解しました。』




振り分けられた仕事をこなすだけ。
イチイチ、気にしてられない……

なのに。気になってしまう……



客「すいません、エラーが……」


『かしこまりました!!すぐ、伺います。』



作業を片付け、笑顔をつくってお客様の元へ。



前「あ〜…前鬼やけど。名無しさん、さんインカム取れますか?」


『どーぞ!!』



なんだ……ちゃんと出来るんじゃん。"さん"付け。



前「3階でお客さんが呼んどるんやけど……」


『あ〜……』



そっか。前鬼さん新人だからゲームマシンの鍵持ってないし、わからないんだ……どうしようかな?



『前鬼さん、一度2階まで来てください!!』


前「おー、了解。」





これはやっぱり……鬼だな。





前「……名無しさん、えらい格好しとるな。」



マシンの中に両足開いて潜る私を見て驚く前鬼さん。


『仕方ないのよっ』



……それより



『3階、行ってくるから…ここ、ドライバーで外しておいて?』


前「おぅ。」



出来るだけ分かりやすく説明して
工具箱を担ぎ、3階へダッシュ……!!




『お待たせ致しました!!すぐ、対応致します!!』



待ってたお客様に笑顔で声を掛けて……対応に入る。



『名無しさんです。メダルフロア二人とも対応入ってます。』



報告で入れたインカムは……





舞「……了解しました」



少しの間が空いて、UFOキャッチャーのプライズフロアにいた舞が返事をしてくれた。

店長……川さん…りかさん。
返事くらい……


なんて思っちゃだめかな?



客「あの……こっちでもエラーが。」


『かしこまりました。』



うわぁ……最悪…なんて感情と少しのイライラを隠して



『お席にて、少々お待ち下さいませ。』



にっこり笑顔で返事をして
急いでエラーを直す。



『お客様、お待たせ致しました!!ごゆっくりお楽しみくださいませ。』



一礼して……
すぐさま2階へダッシュ。



『前鬼さん、大丈夫?』


前「ん、詰まってたメダル取ったトコや。これで良かったん?」


『良かった!!すごく良かった!!』

前「お、おぅ…」



まさか……
エラー対応出来るなんて!!仕事出来る新人さん、大歓迎!!


感動に浸りたい気持ちはあるけれど。
マシンの鍵を閉めて……



『清掃よろしく!!』


前「……。」



お客様が待ってる3階へ再び、ダッシュ。



『お待たせ、致しました!!』



……この際、息切れは仕方ないと思う
にっこり笑顔で対応に入るなりインカムが入る



前「前鬼やけど。名無しさんさん、2階でお客さん呼んどるで。」


『………。』



こんな時に限って、エラーが多いっ!!



『……了解しました!!行きます。』




取り敢えず返事をして、エラーを直す……その繰り返し。




しばらくして






前「名無しさん……大丈夫か?」


『な、なんとかっ……』



汗だくになりながらもエラー対応を片付けた私、たち……
そこへ見計らったかのような



店「名無しさんさん、インカム取れますか?」


前・名無しさん「………。」



箕輪店長からのインカム。



『名無しさんです。大丈夫です。』


店「電球交換どうなってますか?」




どうなってますか?……じゃ、ないですよ!!
でも、それどころじゃありませんでしたよ。……とは言えないから



『今から対応入ります!!』



清掃を整えながらインカムに応える。



店「急いでるんで、お願いします。」


『了解しました。』





だからさぁ。
鬼ですね……!!?私は一人しかいないのに…



前「……俺、先に始めとこか?」


『うん…お願いします。』



先に空気を読んだ前鬼さんを送り出し、フロアを確認していると……



店「名無しさんさん、マイクもお願いします〜」



ヘッドマイクをつけろって指示……



『了解しました〜』



それ以外の返事は、用意されてないって事を。
よく知ってる。



ーーーーー
名無しさんside



誰も居ない電球倉庫、電気をつけないと暗くて私は入れない空間……一人きり。
笑顔の仮面を外して




ズガッシャン……!!!!

『……はぁ…っ。』



置いてあったゴミ袋を思い切り蹴りあげた。なんかもう……イライラがね?収まらなくて。



ピッピピピッ……カチッ

倉庫の扉のロックが外れる音に仮面を被って



『えーと……どこかなぁ?』



慌てて平静を装う。
現れたのは



前「お、名無しさん。なにしとるん?」


「……電球探してたの。」



前鬼さん。
彼が出来る新人で本当に助かった……
川さんと、りかさんが戻るまでの一時間……死んじゃうかと思った……なんてホッとしてると



前「……名無しさん、これ蹴ったやろ。」


『え……?』



"コレ"とゴミ袋を指差す前鬼さん。
まずい……いや、でも分かるはずは……



前「ヘコんどるし。名無しさん、足汚れとるで。」


『え……!!』



自分の足を見れば、ゴミ袋から漏れたジュースの汁が……
しまっ……たぁぁ!!



『いや……これは…ね?』


前「……蹴ったんやろ?」


『う……』



これは……言い逃れは難しいかしら?
まずい所を見られちゃったかなぁ……



『ごめん、なさい……片付けます…』


前「……っぷ。…くっくっ。」


『へ……?』



突然、クスクス笑い出す前鬼さん。



前「お前、おもろいなぁっ!!」


『え?』



面白い?私、が……?



前「黙っててやるわ!!」



ニカッと笑う前鬼さん。
うわぁ……



『……つ!!』



失態、だ……!!

かぁっと頬が染まる。
恥ずかしい……。



前「にしても……努力は上手いこと認められんもんやなぁ。」


『え……』



前鬼さんは、私の向かいから軽々と頭上に置かれた電球のストックに手を伸ばし
視界が……前鬼さんの身体で少し、暗くなる。



『……っ!』



不意に訪れた暗さと
彼との距離の近さに、どくっと胸が鳴る。

急によみがえる不安感……



前「ほれ。」


ぽん、と掌に置かれた電球。



『ありがとう……』


前「ん。先戻っとるわ。」



そう言って倉庫を去っていく前鬼さん。
その後ろ姿を見送る……



どくっどくっ……と騒ぐ心臓。



『……っ。』



身体が震える。



『大丈夫……』



大丈夫。自分に言い聞かせてポケットにしのばせて置いた薬を取り出した……



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