infringe×前鬼

□救難信号
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前鬼side


声をかけた千代は



『駄目。近寄らないで…』



何かに怯えるよに震えとる



前「わかっとるんやろ?自分で。」



別に追い込みたいわけやない



『私は夜叉なのっ……』



何度も自分に言い聞かすよな千代に



前「千代。」



羽織袴で身体を包み


髪を解くと千代の黒髪が肩にかかった。



前「これで今の千代はただの、千代や。」



夜叉でも何でもない


俺が好きな、ただの女。


千代がどんな奴でもええ。


お前はまだ自分自身をちゃんと見てやってないだけや



こんなに綺麗な姿をしとるのに



等身大の自分を愛せとらんだけや



俯いた千代は


声を抑えながら吐き出す



『大っ嫌いなのよ。……嘘つきだし。』


前「千代?」


『弱さを隠してただけよ……』



そうやって


千代は不器用に自分を圧し殺してきたんやろか?


なら


お前が大丈夫言うても


連れてくで?


お前を自分自身の所へ


いつまでも気づかぬフリは続かんのや。


震えながら笑おうとして


音無い声で助けを呼ぶ


千代の元へ



前「千代は千代のままでえぇ。」


『ぜ、んきさ……』



言いたい事すら


うまいこと言えんと泣いとるなら


千代が歩くための勇気にくらいなったる



『………助けて。』



壊れそな千代を



前「大丈夫や。」



強く抱きしめる。


散々苦しんだんや


そろそろ、自分を解放したり?



『鬼なんかっなりたくなかっ……』



震えながら涙を流す千代。


もう


怯える必要はあらへん



『助けてっ!!』



胸にしがみついた千代は


今まで苦しんで堪えてきた姿



『も、わかんないっ……』



バラバラになりそうな千代。



前「千代?大丈夫や……」


『ぁ……』



ゆっくり唇を重ねると


千代の柔らかい唇から千代の凍えた気持ちが伝わったよな気がした



信じられんくても構わん


千代がどんな奴でもええ。



前「好きや。」



もう、一人で苦しまんでもええ



前「千代が好きやで?」



この気持ちも


変わらん。


ーーーーー
千代side



前「千代が好きやで?」




本当は気付いてた



怖いとすら思った前鬼さんの温かさと優しさを知ってく度



苦手だと思うのは



私が嘘で固められて汚れてるから



真っ直ぐな貴方が眩しくて



目を背けてたの……



夕映えに翼を羽ばたかせる貴方の後ろ姿はまだ


焼き付いてる。



とても綺麗でうらやましいって思った……



信じるって笑ってくれた貴方に胸が絞めつけられても


気づかないフリをした。



『なん、で……?』



いつも優しい眼差しで


私の心配ばっかして



前「好きは好き、や。理由なんてあらへん。」



また、バカみたいに真っ直ぐで……



『でも私はっ……!!倒れた貴方に手も差し出せないのよっ!?』



そんな自分が嫌……


貴方はいつも差し出して、私を救ってくれるのに



『守りたい郷だって、今日……』



殺してしまったのに



前「代わりに、俺の痛みを救ってくれたんやろ?」


『……それはっ』




夜叉だから


身代わりなんかじゃない




また


素直になれずに



前「嘘はもうええ。」


『……っ!!』



心を見透かすような言葉に



『こんな自分、私でも愛せないのに……』



誰が愛してくれるのよ



"千代しゃまを愛してくれる方は……"




前「なら、俺が好きな千代を愛したらええ。」


『な……にそれ…』


前「俺が好きな千代は、えぇ女やで?」


『……っ。』



髪をすく指が優しい……


私だって本当は好きだよ。



前「千代は俺の傍に居ったらえぇ。」



そうやってすぐ私を捕まえる。



前「お前は俺の傍に居ったらええねん。」


『……っ。』



大好きだよ。


涙が、止まらない……


でも


今の私は



『その直球にどう返せばいいのかわかんないのよ……』



貴方は私から私を見つけだしてくれるけど



私はいつだって


逆らえない波に溺れそうで……




俯く私に



前「……なら」




前鬼さんは私の頬に温かい大きな手を添えて


顔を上げさせた



前「嫌なら、抵抗せぇ。」


『……っ。』



ゆっくり顔を寄せ


彼の瞳に吸い込まれる……



唇が触れる間際



前「嫌なら、拒めばええ。」



囁く。


『ぁ………。』



嫌なら……



『……ンッ…。』



しっかり重なる唇。


ズルイ……




『ンッ…!?……ふっ…ンン。』



唇を割って入ってきた前鬼さんの舌が


私の舌に絡む



『……んっ。』



見失いそうな自分と


失いたくない前鬼さんを離さないように



しっかり、彼の肩口を掴む


前「千代…好きや……」


『…ハァッ……』



呼吸の合間に囁かれる言葉が身体に響く



『ンン……っ…』



こんなに好きなのに



貴方を



拒めるはずない……。


"
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