infringe×前鬼

□重ね付け
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前鬼side



喰えって……


なんやねん。



前「それに……」



千代の、体質……



ご当主から聞かされた話に頭が追い付かん…




前「……姫さん?」



縁側で一人、頭を垂らしとる姫さんに声をかけると



美「前鬼さん……」



えらい思いつめた顔で振り向く。


なんとなく距離を開けて腰を下ろすと



美「匡は、千代さん殺すのかなぁ?」



ポツリ、落とした。



前「………。」



殺す決心があるなら、すぐにでも計画を練るやろな……


それに、千代は夜叉や。


手ぇだしたら天狗の命は無い。


せやけど


支配されとるわけにもいかん。



前「千代は……嫌なんちゃう?」


美「そうなの?」



俺の言葉に姫さんは表情を和らげる。



前「じゃなきゃ、太郎が淹れた茶なんて飲まん。」


美「お茶?」


前「自分を殺すかもしれん相手が淹れた茶に毒が入っとったらどーするん?」



俺なら、絶対飲まん。


でも千代は綺麗に飲み干しとったな……



美「そっか、じゃぁ千代さんも…」


前「それはまた別の話や。」




千代は


夜叉当主の命令には逆らう事は許されん……




青「おい、遣い魔!!」



前・美「………。」



突然、目の前に現れた千代の小鬼。



青「お前のせいだ!!」

赤「ダメだよ青…千代しゃまに怒られ…」



前「……なんの用や?」



お前らの喧嘩に付き合うとる暇は……



青「本来ならば天狗に喰われるのはお前だったのに!!」


前「は……」



青の言葉に動きを止める。



青「千代様がこんな仕事をされてるのにお前はこんな所で…」

赤「ダメだよ青!それ言ったら千代しゃまに怒られ……」



ちょお、待ちぃ……



前「なんや、俺が喰われるって……」


青「なのに千代様は我らに天狗の屋敷まで守れとは…」

赤「それも言っちゃダメだってば…」



小鬼らはぎゃーぎゃー騒いどるが…



ガッ


赤・青「ひっ…!!」



二匹まとめて片手で捕まえ、握ったまま顔を寄せる。



前「ちゃんと説明せぇ……」


赤・青「ひぃっ……鬼っ!?」

美「………。」



俺が天狗に喰われるはずやったって……



なんやねんソレ……


ーーーーー
前鬼side



左手に握った千代の遣い獣、小鬼。


俺が頭を下げなアカン相手やって事はわかっとるが……



前「千代が身代わり……?」



青の言葉を聞いて、んなことに構っとる余裕はあらへん。



青「スガヤ様は前鬼に天狗を殺させるおつもりだったのだ!!」

赤「その後、天狗が前鬼しゃまを殺した時…忠誠が崩れたと天狗を潰すおつもりでした。」



俺が天狗を殺し



天狗に殺させる……



青「お前天狗でも千代様の遣い魔だからな。お前が天狗に殺されれば夜叉への忠誠が崩れた事になるだろう!!」



美「それじゃ、夜叉さんは最初から天狗を……?」



んな事より……


赤・青「……っ!?」


ぐっと拳を握って青に尋ねる。



前「何で千代が代わりに喰われる事になっとるんや!!」


赤「それは……」

青「お前に言う必要はな…」



抵抗を見せる小鬼を握る手に力を加え


前「吐け。潰してまうぞ?」


赤・青「ひぃっ…苦しっ!?」



強制的に聞き出す。



青「千代様は、一度郷を壊した者よりは…」

赤「自分が相手をして天狗をじわじわ追い詰める方が面白いと仰いました…」

青「お前に壊れてく郷を見せる方が罰だろうとな!!」


美「そんな事…千代さんが…?」



ちゃうやろ……


仮に千代が夜叉として言うたとしても



前「他に裏があるんやろ?」


赤・青「……。」



捉え方次第、やったか?



前「小鬼…俺は千代を信じるて決めてん。そんな言葉に揺れんぞ?」


赤・青「……っ。」



千代は……そんなんに快楽を感じるよな奴やない。


血ぃすら舐めんのや。


人の傷みてボロボロ泣く奴が、んな事するわけあらへん。



青「お前が……」



掌の中で



青「お前が千代様に天狗の郷を守りたいと言ったんだろ!!」



悔しそに叫んだ……。



前「………はっ。」



美「前鬼さん?」

赤・青「……。」



笑うてまうわ。


だから、身代わりに郷を壊すて?



"私だって望んでない"



そう言うたのは


千代やろ?






『……ただいま。』



聞こえた声に顔を上げると



赤・青「っ!?」

美「千代さん!?」


前「お前……」



服から肌、顔まで血で赤く染まった千代が立っとった……




赤「千代しゃま!!」

青「お怪我をっ!?」



俺の手から逃れた小鬼が駆け寄ると



『ううん?私の血じゃないよ。』



千代は自分の姿を見下ろし



『天狗6匹分……』



小さく笑うた。



前・美「……っ!?」


天狗6"匹"……






なんやねん。


前「なんやねんソレ……」


『え……?』



どんだけ嘘を塗りたくるつもりや……



前「……っ姫さん、すまんご当主に報告しといてくれへん?」


美「え?うん……」




出来るだけ感情を抑えつけ姫さんに報告を委ね



つかつかと千代の元へ寄る。



『……何?』


何事もないよな顔で俺を見る千代。



前「……身代わりってなんや?」


『………。』



俺の言葉に千代はチラリ、小鬼に視線を移し


俺を見て笑った。



『別に、天狗を殺したくなっただけよ。夜叉なんだから当たり前でしょ?』


前「……っ。」




その鎖に縛られて苦しんでたのは




千代やないか……


"
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