infringe×前鬼

□魅抜く
2ページ/3ページ

千代side


ドクドクと心臓が鳴る……



民は私の号令一つで散ってった。



大人しく。



そりゃ、喰われたくはないものね?



しっかし……



『き、緊張したぁぁぁ…怖かったぁ……』



へたりと屋敷で座り込む。


匡・八「………。」



そんな呆れた顔しないで?



権力振りかざすなんて向いてないのよ。



前「威勢よかったくせに……別人みたいやな。」



だから、呆れた顔しないでよ。



人の上に立つなんて向いてないの。


『夜叉らしく振る舞っただけだよ……。』



まさか、あんな大群の天狗に敵視を浴びせられるとは……


まだ恐怖で心臓がバクバクいってる。



匡「おい、千代。」


匡さんの顔は強ばったまま。



匡「さっきのアレはどうゆう事だ?」



アレって……



『まんま、よ。支配下におかれたの。』


匡「そこじゃないっ!!」


八「………。」




そんなに怒らないでよ……



匡「喰う、とはどういう事だ。」


『………まんま、ですよ?』



スガヤ様が言った事を伝えただけ。



『喰いたかないけど……主が言うんだもの。逆らえないよ。』


相「夜叉の当主は何を考えているんです?」



そんなの


『私が知りたいわよ……』



ただのお仕置きなのかしら?



匡「言い方があるだろう?」


『………そうね?』



私だって貴方に恨まれたいわけじゃないけど



『でも、夢を持たせて現実を突きつけるほうが残酷じゃないかしら?』



貴方の株も下がる……



匡「脅すことねぇだろって言ってんだ。」


『脅し?』



だから、匡さんは温いのよ。



『脅しじゃなく、これは現実よ。天狗の民は理解に疎すぎる……』



こんな事


言いたくない。



匡「……それは、本音か?」



ピリピリした空気を出さないでよ。



『半分、ね?』



私の言葉を聞いた匡さんはそのまま、部屋を出ていく……



その痛みも



今更、辛くない……


ーーーーー
千代side



前「千代……ええか?」



誰もいなくなった部屋に一人、縁側で足をぶらつかせる私の元へ



『聞く前に入って来てるじゃない。』



苦手な、前鬼さんの登場。



あんな後なのにわざわざやって来るんだから変わってる……



前「なぁ、半分って何なん?」


『は?』


前「さっき。ご当主に言うとったやん。半分は本音やって。」


『あぁ……』



そんな事を聞きにきたの?



前「半分は、本音。なら……半分は嘘、か?」


『………。』



それを知った所でどうしたいのかわかんないけど……


どうせ暇をもて余した私にわざわざ話しかけてくる人も居ないだろうし……




いいか。



『じゃぁ、問題児くんに問題です。』


前「前鬼や。」



『夜叉の主が天狗にお仕置きするのは何故でしょう?』


前「同族争いと……」



前鬼さんは



前「俺の責任やろ……」



表情を曇らせた。


あぁ私、嫌な奴ね。



事情は知ってるし、責めるつもりもない。



『貴方がそんな顔したら、伯耆くんも責任感じちゃうよ?』


前「せやけど……」




違うのよ。根本が。



『確かに郷を半壊させたのは貴方よ。』



それは変わらない



『でも、それを起こした争いは天狗。』



それなのに



『"なぜです!?"なんて民は言ってたけど……自分達の責任なんか、感じちゃいないのよ。』


前「それは……」


『"それは"祥さんだけのせいなのかしら?』



八大だったにも関わらず、美沙緒ちゃんに手を伸ばした……



『祥さんになびいたのは、天狗でしょう?匡さんを信じきれなかった。欲に溺れたのよ。』



それを"何故です!?"って



『匡さんや貴方や伯耆くんに責任を擦り付けてんのよ。自分のした裏切りがわかっちゃいない。』


前「………だから、民に情をもつご当主が温いっちゅうんか?」



『そう。』




私達からしたら


天狗がした事は天狗の責任。



天狗の誰がなんて、大した興味はないのよ。



『……で、もう半分は私の温さ。』


前「千代の?」



『命あるもの、欲を持つのは当然じゃない。』



それは私の主観。



『祥さんについた天狗の気持ちが分からないわけでもないもの。』



だから、半分は夜叉としての本音。



もう半分は



私の本音。



前「ふぅん?」



私の言葉を聞いて優しい笑みをみせる前鬼さん。



『……何よ、ニヤニヤして。』



気持ち悪いなぁ……



前「千代は、優しいんやな。」


『なっ……!?』



また急に……



前「俺らを庇ってくれたんやろ?」


『………っ。』



なんか、悔しい……



『鬼が、優しいはずないじゃない。……バカなの?』



動揺を隠すようにツンとしてみせると



前「優しいやん。俺は、千代を信じるで?」



前鬼さんはポン、と私の頭に手をのせた。



信じるって……


喰うって言ってるのに……



『変わり者ね。』


前「そーか?」


『じゃなきゃ、ただのバカね。』


前「んなっ!?」




でも



嬉しいよ。



『あり、がと……』


前「………。」



お礼は、ね。


一応言わなきゃ。


それくらいいいよね?



前「……おぅ。」



ニヤリと笑った彼に


『………っ。』



胸が締め付けられたのは



きっと



気のせい。





優しいだなんて、買いかぶりなのよ。



前「なぁ、せっかくなんや。出掛けよか!?」



突然立ち上がる前鬼さん。


『何言ってんのよ。さっきの後で出歩くなんて……』


前「ええから!!ホレ。」



ごねる私の腕を強引に掴み立ち上がらせると



前「連れてきたいトコあんねん!!」



前鬼さんは思いたったかのように、私を連れ出した……


"
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ