ぽかぽかフェチズム

□ぽかフェチ7
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名無しさんside



私の苦手な斉藤くん。



斉「お、おはようございますっ!」

『…………。』



今日は珍しく、下駄箱で緊張したように声をかけてきた。



斉「あのっ!こないだはすんませんっした!」

『…………。』



声は大きいけど


距離感と態度は控えめだ。



『…………。』



別に、嫌いじゃない。


けれど


好きなわけでもなく……


例えば、この学校や電車、街にいる人、すれ違う人のうちの一人……という認識だった。


けれど



『おはよ。斉藤くん。』

斉「……っ!」



それは私も同じ事なんだと、思う。


その大群から斉藤くんは私を見つけて、以下同文とは違う興味を示した。


それを無視するのは可哀想だと


隣の席の眼鏡くんは私を叱った。


興味を持つものがあまりなくて……困ればお兄ちゃんがいて……私の世界はとても狭いけど


これといって、広げようとも思わないし


広げる必要性は感じなかった。


けど


それはただ


私が自分以外のものを見ようとしてこなかっただけかもしれないって


眼鏡くんに会ってから……なんとなく、考えたり


……考えなかったり。


まぁ全て私の気分次第になっちゃうけど



『今日は、いい天気。』

斉「え……」


『いい天気……でしょ?』

斉「ぁ、はい……っ!」



少しは


周りの景色を覗いてみるのも


たまには


少しなら


……面白いのかな?


なんて考えたり。考えなかったり。


例えば



『じゃあね、斉藤くん。』

斉「あ、はいっ!」



斉藤くんは、名前を呼ぶだけでとても嬉しそうにする。


他の人もそうなのかな?とか。


思ってみたり。


それだけで、笑顔がみれるなら……興味を持つのもいいのかな?



斉「名無しさんちゃん先輩っ!」

『?』


斉「今度……一緒に出掛けませんか!」

『…………。』



けれど



『…………やだ。』

ガーン
斉「っ!?」



それは少しずつでいいと思う。


疲れそうだから。



ーーーーー



和「パンダちゃんおはよう!」

『…………。』



教室にはいると、皆笑顔で声をかけてくれる。


以下同文の中から見つけ出された気分。


でも私の名前はパンダちゃんじゃ、ないけれど。



『……おはよ。和田くん。』

和「っ!?」



笑顔をくれるなら


笑顔になってほしい、と思う。



上「お、今日もパンダだな!」

林「おはよー、暑くねぇの?」


『…………。』



声をかけてくれるのは


つまり


認識されてるって事



『おはよ、上条くん、林くん。』

上「えっ……!?」

林「名前……っ!?」


『パンダさん……あったかいよ?』



パンダさんを手放すつもりは、まだないよ?


ちなみに、暖房も。



『ぁ。実沙緒ちゃん、ゆりちゃん、おはよ。』

実・ゆ「っ!?」


『…………?』



喜んで欲しいから名前を呼んでみた。


だってみんな、私の名前を知っていて名前を呼んでくれるから。



実「名無しさんちゃん!?」

ゆ「名前……!?」


『…………?』



だけど


可笑しいな。



『名前……嬉しくない?』

実・ゆ「……っ!」



みんなビックリするだけで


笑顔になってくれな……



実・ゆ「名無しさんちゃぁぁんっ!」


ぎゅうっっ!!


『わっ……!?』



私より大きな二人に抱きしめられ


視界は紺のブレザー一色になった。



実「えへへ、嬉しぃ!」

ゆ「もー、可愛いなぁっ!!」

ナデナデ

『……嬉しぃ』



なら、まぁいいけど。



林「名前で呼ばれた事ないからビックリしたわぁ。」

上「つか、名前知ってたんだな!?」

和「確かに……案外嬉しくなるなっ!」


『…………。』



嬉しいかと聞くと、みんなが少し恥ずかしそうに笑ってくれた。



ニコッ
『…………良かった。』

ズキューン!
「「……っつ!!!?」」



私の世界は少しだけ、広がった。



なでなで


なでなで、なでなで……


『…………?』



後ろからのなでなで攻撃。


この手の感触を、私はよく知ってる。



前「名無しさんちゃん、おはようさん。」

『……。』


前「どないしたん?急に名前……」

『おはよ。眼鏡くん。』


前「ぃゃ……それ、名前ちゃうからな?」



やたら私に構う、新しい隣人さん。


私にぽかぽかを提供したり


叱ったり


安心させたり


今までにいない、不思議な人。




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