ぽかぽかフェチズム

□ぽかフェチ2
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前鬼side



『ありがと。』

前「何で名無しさんが礼言うんや?」


『嬉しいから。』



そう言うたあと



『前鬼くんは、いいひとだね。』



と、名無しさんが言うた。



ーーー




前「名無しさん、おはようさん。」

『ジャージ、貸してください。』



名無しさんは棚の上から手をつきだす。


朝の挨拶は無視か?


それとも、そんだけ寒いんか?



前「ブレザーは?」

『クリーニング、取り行き忘れた。』



しゃあないからジャージを貸してやる。


今日はな、オマケつきやねん。


いそいそとジャージに袖を通した名無しさんは



『ん……?』

前「……。」



違和感にポケットをさぐる



『……いちご牛乳。』

前「土産や。」



朝、購買で買うてきてん。


どうせ忘れとるやろって



『……いいひと。』

ピクッ
前「…………。」


『けど、困る。』

ガンッ
前「!?」



名無しさんの言葉にグサッと心がえぐられた。


もしかして迷惑やったんか!?


俺の気持ちに気づいてもうたんやろか!?


ハラハラしながら続きを待つと



『いちご牛乳、飲みたい……』

ドギマギ
前「の、の、飲んで……えぇねんて。」


『でも、寝たい……』

前「…………。」



名無しさんは……


いちご牛乳も好きやけど


……寝るのも好き。



ハァ……
前「…………幸せな悩みで良かったやん。」

『ん……。』



焦った……。


に、しても


"いいひと"それは……誉め言葉なんやろうけど



前「…………。」



俺にとっちゃ、複雑やな。


いいひと、で終わるつもりはあらへんもん。



前「ハァ……」

『悩み事?』


ビクッ
前「はっ!?」



予期せぬ合いの手


振り返り……下を見る



ムスッ
『……見下してる?』

前「なんでやねん。」



身長的にしゃあないやん。


つか……



前「珍しい事もあるんやなぁ。まだ時間あるのに棚から降りてまうなんて……」

『ん……』


前「なんかあったん?」

『呼んでたから。』


前「……誰かに呼ばれたん?」

『うん。知らない人。』


前「は……?」



……よぅ分からん。


首を傾げる俺の袖を、名無しさんが摘まんだ。



『あの人……呼んでる。』

前「は?」



くるり、振り返れば



伯「前鬼さん!」

前「……伯耆。」



部活の後輩の、伯耆が教室のドアから俺をよんどった。


あぁ、名無しさんやのうて、俺を呼んでるっちゅう事やったんか……


言葉足らずすぎやろ……



前「すまん、気ぃつかんかった。」

伯「いえ……ありがとうございます。」



ぺこっと頭を下げた伯耆。


何で俺に礼……と思いきや



前「名無しさん……なんや?」

『……。』



俺の背に隠れた、名無しさんの姿……



『美少年……』


伯「ぇ。」

前「…………。」



伯耆に興味もったんやろか?



『前鬼くんの、後輩?』

伯「あ、はい……伯耆といいます。」


ペコリ
『名無しさんといいます。』

ペコリ
伯「あ、どうも……」


前「…………。」



ぺこぺこ頭を下げあう二人……


なぁんか、おもろくない。



前「で?伯耆、なんの用事や。」

伯「あ、はい……」



名無しさんが下手に興味持ってまう前に、とりあえず伯耆を立ち去らそ……



『……ねぇね』

前「ん?」



伯耆が立ち去ったあと


名無しさんは寝床に戻らんと、自分の席についた


……今日は槍でも降るんやろか?



『伯耆くん……可愛いね。』

ピシッ
前「…………。」



この時俺は……


言付けを伝えに来た伯耆と


何度呼ばれても気ぃつかんかった自分を呪った



前「ぁ……なんや、興味もったん?」

『……。』



ドギマギしながら、単刀直入に聞いてみる。



『……うん。』

前「……!!」



瞬時に……


単刀直入に聞いてもうた、自分を呪った。




ーーーーー
名無しさんside



『……。』



じゅるるるる……



『……。』



じゅるるるる……



『……ぷはっ。』



じゅるる……ぽこっ



いちご牛乳を飲むときは、力加減に気を付ける。


ブレザーもセーターも汚れちゃうし


今は、前鬼くんのジャージを借りているから……汚さないようにしなきゃ。



前「ハァ…………。」

『……。』



隣人の前鬼くん。


これで今日何度目かのため息……


うーん。


ため息ごときで幸せが逃げるとは思わない。


頼りない吐息で逃げるようなら、その程度の頼りない幸せだったんだろう。


幸せをもらうなら……うん、おっきくて嬉しい幸せがいい……


たとえば……



『……。』



じゅるるるる……。


お土産に貰った、いちご牛乳とか。



ハァ…
前「…………。」

『……。』



前鬼くんが……辛気くさい。


後輩の伯耆くんが来てから、ずっとため息。


嫌な事でもあったのかな?




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