フェイク×前鬼

□私だけのもの
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前鬼side



豊「あれ?今日はバイトないのか?」


前「……豊前」



今頃店は昼の休憩でも回してる最中やろか……



前「サボりや。」


豊「………。」


前「もぅ離れるって決めたんや。」



ご当主にも、ちゃんと報告せなアカンな……



豊「名無しさんの事はもういいのか?」


前「……天狗ってバレてもうたんや。」


豊「え……?」



昨日はバタバタしとって、ご当主や八大らには話してないまんまやった。



前「俺なぁ、名無しさんを抱えて翔んでしまったんや。」


豊「それまた、大胆なバラし方だな。」


前「……せやろ?」



反応に困っとる豊前に笑ってみせる。
抱えて翔ぶなんて、どうやったって誤魔化しようがないやないか。



前「えぇねん。離れようと決めてたしな。名無しさんも記憶を戻してまったみたいやし……」


豊「……消すとは限らないだろう?」


前「消した方が、アイツの為なんや。」



自分で辛くて消してた記憶を、俺が思い出させてしまったんや。それを元に戻すだけ……



豊「前鬼はそれで良いのか?」


前「……は?」


豊「名無しさんに好きとまで言ったんだろう?」


前「………。」



そんなん……
どうしようもないやん。



前「……えぇねん。」


豊「そう思ってんのはお前だけなんじゃないか?」


前「は……?」



豊前はそう笑って、門の外へ視線を向けた。



ーーーーー
名無しさんside



『………。』



目の前のお屋敷は何度見ても立派で……


ここに居た人達はもしかしたら、皆さん天狗なのかな?

信じがたいけど……


でもいくら考えたって分からない事ばかりで、答えも出ないし……



もぅ、いいや……。



信じたい人を信じてみる方が、ずっと簡単だもの。



会いたいって気持ちに従った方が、答えを探すより楽だもの。



本当に全部忘れてしまうのなら、その前に自分の気持ちくらい伝えておきたい……



『そう思って来たのはいいけど……』



……どうしよう。
インターホンが見当たらない。


勝手に入るのも失礼、だよね?


前鬼さん、居るかわからないし……



でも



だけど



『……っ』



あぁ、もういいや……




『すいませーんっ!!』



お屋敷に向けて、声を張り上げる。



『前鬼さんっ!!』



ご近所には迷惑だろうけど……



『誰かいらっしゃいますか!?』



それだけの声で叫べば、誰か出てきてくれるよね?



私が持ってないものは数えきれない程あって、ありすぎて嫌になるけど……


私が抱えてる前鬼さんへの想いは、私しか持ってない大切なものなの。



『前鬼さんっ!!居るんでしょう!?』



せめて……



せめて、それくらい伝えさせてよ。



好きだって



言わせてよ。



『誰かっ……』



どれだけ叫んでも、中からの返答はなくって……



もしかして誰も居ないんじゃないかな?



本当にもう会えないのかもしれない……



『誰かいませんかっ!?』



こんなことなら



もっと早く自分の気持ちに気づけばよかったよ。



傷ついても、勘違いしとけば良かった……



『前鬼さんっ!!いないのっ!?』



つまらない保身ばっかりしてないで



踏み出せば良かった……



そうしたら、こんな後悔はしなかった?



そんなはずない、なんて言ってないで……もっと誰かを信じれる勇気があれば



こんな事には……



『……っく。』



涙が頬を濡らす。

そんな時だって、前鬼さんは傍に居てくれてたな……



もぅ、戻れないけど……。



『……ウソつき。』



俯きながら、涙を拭う。



警戒しないでいいって言ってたくせに……


天狗だなんて言われたら、驚くに決まってるじゃない。



でも、ちゃんと話してくれれば



私だって貴方を受け入れる事ができたかもしれないのに……



『っく。……う、そつきっ』



"俺そんなに信用ないか?"

信用してたよ……。貴方はいつも、模造品じゃない、私を見てくれてた……



私は……貴方の本当の姿を見つけてあげられなかったけど……



"傍に居るから"

そう言ってくれてたのに……
嘘は言わないって言ってたのは貴方なのに。



『……ウソつきっ!!』



顔を上げて、もう一度お屋敷に叫ぶ。



『前鬼さんのウソつきっ!!』



傍に居てくれるんじゃなかったの?



『前鬼さんのバカっ!!』



なんで勝手に居なくなっちゃうの?



『前鬼さんの……アホーっ!!』



記憶を忘れさしたるから、って何よ。

"もっと自分と向き合うたり"

せっかく、見つけられたのに。
ようやく向き合えるようになったのにっ!!



『なんで居なくなんのよ!!傍に居るって……言ったのにっ!!』



少しずつ、見えなかったものが見えてきたんだよ?

この世界も捨てたもんじゃないって……思えるようになったの



『前鬼さんのキス魔っ!!』



勝手に……記憶を消そうとしないでよ。
この気持ちはどうしたらいいの?



『……天狗のばかぁぁっ!!』



天狗でもなんでも……私は前鬼さんが好きなの……。せっかく、乗り越えようと思えるようになったのに……


なんで……



私はまだ好きで居たいよ。


この世界も、天狗も、前鬼さんも……



『っく……ウソつきっ!!』



やっぱり……



私の声は無力なのかな?



もう……届かない?

















前「……言い過ぎや。」


『ぁ……。』



声に顔を上げれば


会いたかった人の呆れきった顔が見えた



前「……分かってんのか?ここは天狗の屋敷やぞ。」


『……わかっ、て、るっ』



そんな事、どうだっていいの……。



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