フェイク×前鬼

□ジュエリーボックス
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前鬼side



名無しさんが落ち着いたのを確認して屋敷に帰り、そのまま縁側に座って夜風に当たる


涙で濡れた服はとうに乾いたが……


頭ん中がすっきりせん。



豊「あれ、まだ着替えてなかったのか?」


前「……あぁ。」



このタイミングでコイツが現れると、えぇ事ない気がしてならんな。



豊「浮かない顔して……恋煩い、かな?」


前「……お前、楽しそやな。」



まぁ、でもコイツなら……



前「なぁ豊前、聞いてもえぇ?」


豊「なんだ?なんでも教えてやるぞ」



庭から豊前に身体の向きをずらすと、豊前は妙に上からな態度を見せたが……


まぁ、今はえぇ。



前「もし……もし、の話やで?」


豊「あぁ。」


前「例えば、や。」


豊「……強調しすぎじゃないか?」



んな事が意味ない事はよぅわかってんけど、そうとでも言っておかんと


こんな話聞けんしな。



前「好きな女と二人きりになって……」


豊「前鬼の話か?」


前「そこは聞くな。」


豊「……。」



そこ聞いてもうたら


"もし"だの"例えば"の意味が無いやないかっ!!



前「んで……傍に居ったる、と。」


豊「……ほぅ?」


前「心配でほっとけん、と。」


豊「ほぅほぅ……」


前「好きや、と。」


豊「おー!!よかったな!!言ったんだろ?」



バシバシと肩を叩いてくる豊前。
"よかった"事あらへん!!



豊「んで、返事は?」


前「いや……なんちゅうか…」



返事……なんやろか?



前「周りに勘違いされても知らん……って。」


豊「それ……伝わってるのか?」


前「いや、でも……他にこれ以上の直球があるか?」


豊「………相手にされてないんじゃないか?」


前「………。」



……やっぱし、か?

伝わっとらんのやろか?
分かってて相手にされとらんなら、よりヘコむわ……。



豊「名無しさんのガードは崩せず、か。」


前「ん〜……」



ガード……って感じでもないんやけど…



前「って、ちょぉ待て。誰も名無しさんの事とは言っとらんやないか!!」


豊「はいはい……太郎が飯だって呼んでたぞ。」


前「……おぅ。」



頭ん中がすっきりせん。



いつまであそこに居れるか分からんし
想いが通じたら離れがたくなんのも分かってんけど……



前「……あわよくば、や。」



名無しさんが言うた"大好き"が耳から離れんからやろか……



ーーーーー
名無しさんside



『……びっくりした。』



一人になった部屋に



舞「私の方がびっくりしたわよ!!」



前鬼さんが帰ってから、入れ替わりでやってきた舞。



『ゴメン……迷惑かけちゃって。』


舞「迷惑じゃなくて、心配よ。」


『ゴメン……夕飯まで作って貰っちゃって。』


舞「ありあわせだけどね。」



私の前には立派な夕飯が用意されています……


さすが、主婦。

でも子供も居るのにわざわざ家まで来てくれるなんて、本当に心配させちゃったんだなぁ



『頂きます……』


舞「召し上がれ。」


『美味しい、です。』


舞「……よかった。」



部屋の空気はどことなくギクシャクしてて……

それはきっと、ここ最近の私の態度のせいだったり……前鬼さんのお陰で気づけた事にまだ不慣れな私が居るからなんだと、思う



舞「眼……腫れてるね。」


『……ぅん。』


舞「名無しさん、さ。最近私の事……避けてたよね?」


『………ごめん。』



私が、信じる事が出来なかったから……



舞「どうして、かな?」


『それは……』



今までなら、


きっと笑って誤魔化してた……



だけど


"もっと自分と……"



私は



信じてみようと思えたから



『あのね……?』



貴方の声に支えられるまま


少しだけでも、踏み出してみよう。












『……落ち着いた?』


舞「うん……名無しさんは?」


『落ち着いた……』



私の下手な話を黙って聞いてくれていた舞……


おばぁちゃんの話

精神疾患の話

あとは……過去の苦い記憶



語ることのなかったそれを舞に話して



舞「一人で抱えないでよっ……」



そう言って、私の為に泣いてくれた舞に、私もつられ泣き……


それでも確かに



言葉に出来ない温かさが存在してて



失望ばかりに怯えていた私は



周りの希望が見えてなかっただけなんだ、と気づけたの。



舞「……で?前鬼さんは?」


『え?舞が来る前に帰ったよ?』


舞「そうじゃなくって!!」



ここから先は


女の子同士のお話……?



舞「二人はどこまで進んでるの?」


『はっ……!!?』



進んでるの?って……



『何もないよっ!!』


舞「またまたぁ!!」



女の子がこういう話が好きなのはどうしてなのかな?
まぁ……舞が相手なら、それだってきっと楽しい……



舞「前鬼さん、名無しさんの事好きっしょ!!」


『いやいや……!!とんでもない!!』


舞「名無しさんは鈍いから〜」


『いや……本当に何もないよ?前鬼さんは優しい人だから……』



前鬼さん……

早速、舞に勘違いされちゃってるじゃない。



舞「いい男じゃない?」


『いや、そうだけど……』


舞「家に上がり込んで何もなかったの?」


『当たり前じゃん!!何もな……』




"俺が傍に居るから"


"俺は求めるで?"


"勘違いしたらえぇやん"


抱き締めてくれた
前鬼さんの腕の温もり……



舞「……何かあったね?」


『ぃやっ!!ちがっ……!!』


舞「名無しさん〜!!白状しなさいよっ!!」


『ちがっ……!!あれは優しさだから!!』



そうだよ!!

ただの、前鬼さんの優しさだよ……
それを勘違いなんてそんな…



舞「アレ、ってなに?」


『ぇ……』


舞「優しさのアレ、って?何があったのかなぁ?」


『ま、舞……?』



両手をにぎにぎしながらジリジリ近づいてくる舞。



舞「全部白状しなさぁいっ!!」


『わぁぁぁっ!!?』



そのまま、舞に飛びつかれて床に転がる。



"名無しさんは勘違いしてくれへんの?"



……そんなの、私がしていいの?



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