フェイク×前鬼

□天狗は好きですか?
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前鬼side



『迷惑かけてごめん』



それを聞いて、思ってん。



前「名無しさんのせいやあらへん。」







だって、そうやろ?


お前が怯えとるのは、俺らのせいやんか。こんだけ気持ちは名無しさんに向いとるのに


天狗に傷つけられて苦しんどるなんて
俺の気持ちは迷惑なダケやろか?


それでも……やっぱ、守りたいねん。
痛みくらい忘れさしたりたい
イヤやて言うてた薬も……なんとかしてやれへんやろか?





柳「名無しさんさん、あの……」


前「………。」



名無しさんは……柳みたいに、人間の男のがえぇんやろか?


……それにすら恐怖を感じとるみたいやけど。



前「なぁ、俺が言う事やないかもしれんが……」


『ちゃんと謝って返事しなきゃね……』


前「まぁ、なぁ……」



それはそれで気になるわ……。
何て応えるんやろ?

ハッピーエンドやなくてえぇって言うとんのに、そんなん気にしてたらしゃぁないなぁ。

でも頭んなか、わかっとっても複雑やねん……。








……で。



「昨日の晩、他界しました。」



次々にやってくる波は




り「名無しさんさん!?だ、大丈夫?」


前「おぃっ……立てるか?」




簡単に、名無しさんをのみこんだ……














あの後、名無しさんは何事もないかのよに



『じゃぁ、私清掃確認してくるね。』


り「名無しさんさん?」

前「大丈夫か?」



ニコッと笑うた。
大丈夫か、なんて聞いてもこいつは



『え?なにが……?』


前・り「………。」



何も分からんって顔でフロアへ去っていく。辛そうな素振りも見せんと……


だから、ほっとけんのや。




前「……うし。」



長い一日を振り返って、屋敷に帰る。


こっからの時間も
長いやろなぁ……



前「相模にまた説教されそうやな……」



自分の役割はわかっとる。
勿論、今日の話もご当主らには報告せなアカン。


せやけど



俺はまだ、名無しさんの傍を離れるつもりはあらへんねん。



ーーーーー
前鬼side



夕食後、八大が揃った部屋
話の内容は名無しさんの事以外ない



暗闇や対人に恐怖を感じてまう事

それを薬で治療しとる事

誘拐された記憶がある事


せやけど、天狗の事は覚えてへん事……




匡「そうか……」

相「覚えてないならば、記憶は消さずに済みそうですね。」


匡「あぁ。」



ご当主と相模の言葉に取り合えず、胸を撫で下ろす。


記憶を消さんで済む。

アイツは俺を覚えててくれるんや。

これ以上、名無しさんを俺らのつまらん事情に巻き込まんでえぇんや……



せやけど……



相「匡様、前鬼の潜入は……」


前「なぁ……その事なんやけど」



まだ、名無しさんは苦しんどる。



前「俺、まだあすこに居りたいんや。」


匡・八「………。」



まだ、名無しさんの傍に居りたい。
痛みから救ったりたい。



相「……任務は終わったんだぞ。」


前「わかっとる。」



相模は案の定、渋い反応を見せる。
任務が終わってこれ以上名無しさんの傍に居る必要はあらへん。


わかっとる。



でも……




前「天狗が名無しさんに負わせた傷をそのままにはしておけん。」


豊「前鬼……」

伯「前鬼さん……」



深く心に残ってもうた傷を
消す事は出来んでも、浅くすることは出来ひんか?



前「怯えとるアイツを守りたいねん。」


匡・八「………。」



俺は……仕えるためやない。
郷を守りたいから、アンタの力になったろうと思ったんや。

力にモノ言わせる時代は、そろそろ終わりを迎えたってえぇやんか。



前「なぁ、ご当主。この通りや。」



ご当主に頭を下げる。



匡「………。」

八「………。」



アンタに仕えるために八大になったんやない。


せやけど



アンタを選んだ自分の信念と
仕えたるのがアンタで間違いやなかった、と信じさせてくれ……!!




匡「きっもちわりぃ……」


前「は……」

八「………。」



ご当主の声に頭を上げる。



匡「なんだよ改まって!!サルらしくねぇっ〜鳥肌立っちまったじゃねぇか!!」


豊「………ご当主」

伯「匡様……」



人が真剣に頼んどるのに……こっんのバカ当主は……!!



前「あんたに頼んだ俺がアホやったわっ!!このクソ当主っ!!」

匡「あんだとっ!?」


前「こっちは真面目に頭下げたったんや!!二度とあんたには下げたらんけどなぁっ!!」



ぜぇったい下げたらん!!
頼まれても下げんっ!!



匡「サルに頭下げて欲しいなんて思っちゃねーよ。バァーカ!!」


前「なっ……んやとぉぉっ!?」



ホンマ腹立つ……っ!!



匡「居たいなら居ればいいじゃねーか。」


前「あ"……?」


匡「名無しさんの傍に居てやれよ。」


前「………ご当主」



……ホンマ、調子狂うわ。



匡「やっぱ好きなんだろ?」

豊「名無しさんはなかなかいい女だったもんなぁ?」


前「………。」



"どやろな?"

"あんたには関係あらへんやないか"


ご当主と豊前の声にいつか自分が吐いた言葉を思いだしてん。

そんなん、今さらやないか?
胸はって言ったる。



前「名無しさんが好きやで?」


匡・八「………。」



つまらん嘘言うてもしゃあないやん。
こんだけ、名無しさんの事を想えるんや、それはもう"好き"以外あらへんやろ?


結末が悲しいもんやったとしても
この気持ちに嘘はつけん。



なぁ、名無しさん。
お前は覚えとらん天狗を、お前が嫌いやって言うても


俺はお前が好きや。



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