infringe×前鬼

□蒼
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千代side



たった一つ
殺めるだけでこの世界を救えるなら



私は神に背く鬼になりましょう。



『オジーサマ、その命頂戴します…』



今の私は誰より強い鬼…
主を身内を斬るのは容易い



怖いものなんて、ない……



匡「千代っ!!?」

相「当主を斬るなど……」

前「千代、なに言うとんのやっ!!」


『いいのよ…これで……』



神に裁かれ、それでこの身が滅びても
悔いはない。



『オジーサマ、覚悟っ!!』

ス「……。」



紅の刀を手に、スガヤ様の首を取るべく舞う。



ドッ…!!

『っ!』



スガヤ様が放った光は私の身体を貫くべく、ぐんぐんと向かってくる。



避ければ、後ろで控えてる天狗は一気に消えてしまうだろう…


でも



『そう簡単には喰わせないと申しましたでしょう?』


ニヤリと笑い、刀で光をぶった斬る…



パァン…


刀に斬られ弾ける光の中から飛び出すと



ス「…っ」


『驚くことはないでしょう?』



容易にスガヤ様の目の前に辿り着いた。



まずは…



『その気味悪い仮面の下…』



スパッ…

ス「く、ぅ……」



刀を浅く入れ、仮面を2つに割って落とす…


ようやく拝見したそのお顔…



『え……』



それは
見覚えある顔だった…



ーーーーー
前鬼side



いつの間にか夜叉の当主の前に飛び出した千代…



豊「動きが…」

前「全く見えんっ…」



世界を握り潰すことすら可能やっちゅう千代の鬼としての力…


俺らとは桁外れや……



『まずは気味悪い仮面の下…』



当主に張り付いた気味悪い仮面。
俺かて、最初目にした時は異常やと思うたが……



『え………』

匡・八「なっ!?」


夜「「……っ!!」」



2つに割れた仮面の下からは



前「女……やったんか…」



"オジーサマ"と呼ぶには相応しくない女の顔が現れた……



匡「どういう事だ?」

前「わからんっ…」



姿を隠し、声まで変えとったんや……
夜叉らも動揺しとる



相「気づいていた者はいないようですね…」

伯「何故……」



そこまでして正体を隠す必要があったんか…
皆が黙って見つめる中




『……お母さん?』


匡・八「っ!!?」



小さく呟いた千代の声が響いた




ーーーーー
千代side



あぁ本当に
この世界はなんて醜い……



『お母さん……』



気味悪い仮面の下から現れたのは
写真でしか見たことがない、死んだはずの実の母……



『何故……』

ス「………」



動揺する私の肩を


ズドッ…

『ぐぁっ…!!?』



主が放った光線が貫いた



前「千代っ!!」

『く…ぅ……』



あんなに嫌っていた我が主が
死んだはずの実の母だったなんて……


それでも
我が主は私へ牙を剥く。


確かにこの世界はちっとも美しくない



揺らぐ思考が定まらない中、うっすらそんな事を考えた……



ス「お前は我の餌となる為に生まれたのだ」

『……っ。』




脆い心を引きちぎって
主の声が響く


実の母なんて期待しちゃいなかったつもりで…
それでも
何度となく取り出した写真の顔を覚えていたなんて…



不確かなものを無邪気に信じて…馬鹿みたいね?



ス「ようやく会えたな。我が娘。」


『……。』



冷たい笑みを向ける主。


"ようやく会えた"
なんて
なんて素敵な嘘…




ようやく喰える…


その間違いでしょう?



『私の母は死にました。』

ス「そうか。」



この憎悪向けられた歪な定め
理想とは実に脆いもの…


肩に穴が空いたって
心臓はまだ脈をうつ


期待だなんて…
何言っちゃってんのかしら…



『我が主も…死にます。』


代わりに生まれたやり場のない、この憎悪…



前「千代っ!!やめぇ!!」


ス「……。」



天狗に掌を向けるスガヤ様



"やめろ"
だなんて戯れ言。


嫌だと、認めたくないと叫んでも
世界は止まってはくれない




"あぁ違うか。彼は愛を求めて戦ったんだっけ?"






ザッ…ズドッ……


『…愛、ねぇ』



最後に浴びた真っ赤な血は窮屈な世界の終わりをつげ


母の死を告げた




ベチャッ…

主の身体が地へ落下し、鈍い水音を立てる







価値あるものは力ではない


奪われた自由を取り戻せ


新しい世界が生まれる日を


貴方がいる世界を救うために


私は私の道を



一生ものの傷なら価値あるものに…






『あぁぁぁぁっ…!!!!』



ようやく手に入れた自由と自分の価値




転がる死体




鳴り響く不協和音に気が狂いそうよ


"
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