infringe×前鬼

□infringe
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千代side



いつも、喰われないかびくびくしてた。


崩れそうな心をかき集めて、心のずっとずっと奥の方



本音と弱い自分をそこに隠して扉に鍵をかけた。



定めから逃げ出さない為に、途切れそうになる日々を埋めて



うわべだけを撫でられ、それに嫌気を感じながらも



必死に、自分を演じた。



定めを忘れないために

クタクタになりながら走り続けては見張り役の自分に嘘をつき



自分を変えてくれるきっかけを待ち続けて手に入れた、無価値なポジション。



浴びる言葉に足並み揃えて、気づかぬフリ。



夜叉としての少しのプライドを守るのに必死になった。


でも



"立派な八大夜叉として"



そのプライド、守る程のものだったの?


待ってて、きっかけはやってきたの?



"選ばれし夜叉として"




それって



それこそが無駄なんじゃない?



"夜叉向いとらんのちゃう?"


知りつつも気づかぬフリ。
バカげた仕事に手を染めた。



"苦しい…怖い…"




押し殺したはずの自分が顔をだしては囁くのに



気づかぬフリをした。



気づかぬフリはフリでしかないと。
嘘は嘘でしかないと。
私は、私だと……


そういって探してた温もりで包んでくれてたのは…だれだったかな?




前「よう晴れとるなぁ?」

『……おはよう。』



共に夜を過ごして共に迎えた朝、空は青く染まっていた


彼は私の格好を見て、苦笑する。



前「そっちに、着替えたんやな。」

『うん…』



夜叉の衣装に身を包んだ私は、夜叉として主を裏切った



後悔はしてないよ?
私がこれから歩む道を進もうとしただけ。



今度は私が救ってあげる。
貴方を、この郷を…




『ねぇ、前鬼さん?』

前「……なんや?」



くあっと大きなあくびをして身体を伸ばす彼に、伝えたい事。



『……好きよ?』

前「…。」



前鬼さんはポカンと動きを止めた。



『じゃぁ…私先に皆さんの所に行くから。』



赤い顔を隠して、バタバタと部屋をでる



伝えたい事は、伝えられるうちに言っておかなきゃって思ったの。


ーーーーー
千代side



匡「……本当にいいんだな?」



匡さんは険しい顔で私に尋ねる。


『もう…何度目?自分で決めたのよ?』


匡「だけどな…?」



私が主を裏切る事に難色を示す匡さん。
黙って喰われるのも、天狗が滅びゆくのも、ただ見ているなんて嫌なの。



『九尾を始末した時点で戻りようもないのよ?』

匡・八「………。」



赤い瞳も、変わらない…



『欲しがりな我が主は白旗上げたくらいじゃ気も変わらないでしょうし…』



私も、変えるつもりはない。



『色々取り繕うのも、ややこしいのよ。』



私は私の道を行く。
そう決めて鬼となった…


今更、怖がる事はない。
嘘を嘘と思わず偽り
命を命と思わず殺めてきたんだもの



『私は、自分の希望を手に入れる為に捨てるの。』



夜叉だった私の存在を…
例えそれが
深い傷を負う決断だったとしても…



それが一生ものの傷なら、価値あるものになりそうでしょう?



『赤、青……貴方達はまだ間に合うわよ?』


赤・青「……」



小さな友達。
だからこそ、無理に私に付き合う必要はない…



赤「いえっ!!我等も千代しゃまが描く未来を見てみたいでし。」

青「時間がありません。ご指示を!!」


『そう……』



時間は余り無い。



『ならば、小鬼は私と共に結界を。』

赤・青「はいっ!!」


匡「そうか…」

前「千代の力で張った結界なら、少しは安心やな。」


『まぁ…八大夜叉が攻めて来ても破れないでしょうね。』



今の私は誰より強い鬼、だもの…



相「結界が破られる心配はないのですか?」


『それは残念ながら、頷けないわね。』



一人、厄介なのがいるもの……



『スガヤ様ならば、可能かもしれない…』

匡・八「……。」



私が覚醒した事は妖力の波動でスガヤ様は知っているはず。



『ようやく、重い腰をあげてやって来るわよ。』




私を喰いに。


"
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