infringe×前鬼

□感染症
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千代side


私が生きる意味は


夜叉として


命を喰らう者でありつづける事。


叶わぬそれ以外の希望なんて信じたくもなかった。


だって


無理なんだもの。叶わないんだもの。


そうやって私は今まで幾つの希望を捨ててきたのかしら?


先の知れた未来が見えているのに


夢みる必要なんてないと思ってた。


貴方に救われるまでは









匡さんと八大さんと共に駆けつけた場には


天狗の民の引き裂かれた肉体の破片……



『これは……』

前「なんやコレっ……」



匡「誰の仕業かは分からねぇ。」

相「報告を受け駆けつけたときにはこの状態でしたからね。」




まるで


食べ散らかした食卓の後みたいな光景……



それは



「夜叉様が……」

「鬼に喰われた……」



夜叉が命を喰らった後の光景に似ている……


天狗の民からそんな声が上がるのは当然。





匡「千代じゃねぇよ。」


『匡さん……』


匡「お前は血肉が苦手だしな。屋敷に居たんだろ?」

『うん……』




でも……




伯「一体誰が……」

豊「千代の仕業に見せたかったんじゃないか?」


前「民も……そう思うとるみたいやしな?」



私の仕業に見せたかった……?



『違う……』


前「千代やない事くらいわかっとるて……」

『そうじゃなくて……』



数体の天狗の引き裂かれた死体をじっと見つめる。


ナマモノが腐る臭いと鉄臭さ……



『これ……喰ってる…!!!』


匡・八「………。」



見せかけではなく


内臓や肉……


まるで好みがあるかのように


選んで


喰い千切られてる……



『本当に、喰ったのよ……』


前「喰った……て」

匡「千代…この郷にきてんのはお前だけじゃないのか?」


『そのはず……』



だけど……



『……っ。』



鬼笛を取り出し


小鬼たちを呼び出す。


空気を震わせ合図をかければ現れる小鬼たちは




『………何故』



現れない。



こんな事、今まで一度もなかった……



前「……とりあえず、話は後や。」

『ぇ……?』


豊「今回は……水をかけられるだけじゃ済まなそうだな。」




周りには刀や斧を持った天狗の民が


それを構えながらジリジリと間合いを詰める……



匡「お前ら……誰に刀向けてるのか分かってんだろうな?」



苦い顔の匡さんの言葉にも民は反応しない。


目の前の事態に怯え


ついに"餌"狩りにでるつもり……?


それとも


同族でまた争う?




『……匡さん、戻りますよ。』

相「この状態では、何を言っても無駄でしょう……」



どちらにせよ


天狗の命を奪い合う事にかわりはないもの……



匡「……それが賢明か。」



温いとすら捉えられる言葉も


今だけは


賢明だと思えてならなかった……

ーーーーー
千代side



鬼のフリしか出来ない鬼がいる場所に



喰われた天狗の死体



それは



肉を喰う本当の鬼が現れた証……




『……離れて下さい。』


匡・八「………。」



お屋敷に戻りいつかと同じように印を刻んで結界を張る


夜叉が張った結界


天狗が破るには至難だろう……



いつか


民の怒りが皆さんが集まるこのお屋敷に向くんじゃないかと危惧していたけど……



『これで、暴動からは守られるはず……。』


匡「……助かる。」



民の様子に匡さんも酷く参ってるみたいで



八「………。」



八大さんも、困惑の色が抜けない。


私も……


鬼笛を握り、もう一度吹いてみても


小鬼は現れない



『……どうして』



何か、あったという事だけはわかる。


"何"があったのかが……


見境なく人肉を喰らう鬼がこの郷に現れたなら


報告くらいあっても良さそうなもの。



『……一度、夜叉の郷に戻ります。』



スガヤ様からの命はないけれど


何も確認しないよりは……



前「あの当主んトコ……いく必要あんのか?」

『前鬼さん?』



彼の言葉にその場にいる皆の視線が集まる。




前「顔も姿も声すらわからん当主……千代はあれを信じとるん?」


伯「前鬼さん……」

豊「夜叉の当主様だぞ。」



前鬼さんは


スガヤ様をけなしているわけじゃなく……



前「信じて会いにいくんか?」



私の本音に問いかけてる……



『あの狂った姿が……夜叉当主の姿よ。』


匡・八「………。」



あんな姿に、違和感抱かないわけないじゃない……


"狂った姿"そう思うわよ。



でも


それが当たり前かのように、あの郷では受け入れられている


力があるから


受け入れられているの。



そうでなくては


喰われて終わり……。



『………スガヤ様は求めているんでしょうね。』



思い通りにいかず


ジレンマを抱えた強欲な我が主が求めるもの……


私でなくても良さそうなのに、遣い魔を手に入れた後も天狗の元へ向かえと



私に命じ続けた理由




『私の覚醒を……待ってる。』



私が



いついつ鬼となるかを



高みの見物してるのよ……




前「せやけど何で……」


『なんでって……』




決まってんじゃない。



『私を、喰らうためよ。』

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