純白の魔女
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「兵とは機動なり。古代中国の孫子の言葉だ。
つまり戦いとは相手を欺くことだと教えている。
戦力を偽り目的を偽る。これも戦争の一面の真理だ。
基本中の基本だから覚えておけ」
LBX戦術講座の授業。
猿田教官はテキストを読み上げながら戦いの何たるかを説いている。
私は適当に聞いているフリをしながらアラタの席の方を向いた。
「(またか……)」
アラタは鉛筆を口にくわえ何かを考えている様だ。
大方、今日のウォータイムの事だろうと簡単に想像できる。
「瀬名アラタ!」
猿田教官も気づいたらしくフルネームでアラタを呼ぶがよほど深く考えているのか気付く素振りはない。
サクヤがアラタの名を呼ぶがやはり気付かない。
「やっぱこのままじゃ」
ぶつぶつと言いながら口に含んでいる鉛筆をもごもごと上下に動かす。
サクヤが再び名前を呼ぶも気付かない。
「あいつらに抵抗するために何か」
猿田教官がアラタの席の元へ行ってようやく気付く。
「うわっ」と驚きの声をあげると猿田教官は無表情で顔を近づける。
その時のアラタの顔は口角が引きつっていた。
「自業自得」
ジト目でハルトはアラタに対して呟く。
リョウも苦笑いでその様子を見ていた。
博士は自分は関係ないと言わんばかりに無関心を貫く。
「油断大敵」
そういうと猿田教官は丸めて持っていたテキストをアラタめがけて振り上げた。
――――――
――――
――
―
キーンコーンカーンコーンと昼休みの始まったチャイムが鳴る。
第1小隊と私とリョウはカフェテリアの席に座り今日のウォータイムについて話し合う。
ユノも立ちながら私達の話し合いに混ざる。
「プリンプリン」
事前にリョウに買ってきてもらっていたプリンを袋から取り出す。
リョウにSCを返金していると袋の中にスプーンが入っていないことに気付いた。
「スプーンがない」
「あ――。購買のおばちゃん入れ忘れたな。貰ってくるよ」
「頼んだぞ」
リョウはダッと購買の方に走っていく。
ちなみに私の隣の隣に座るアラタは精魂尽き果てた様子でテーブルに顔を伏せている。
「あーあ」
「大分絞られたみたいね」
「猿田教官のお説教きついから」
「とにかくまじめに授業うけないとほんとに落第するわよ」
こうしてみるとユノがしっかりしすぎていて親子のように思える。
なんて口に出すとユノに怒られそうなので口には出さない。
「しかし真面目に授業を受けているアラタも想像できぬがな」
「どういうことだよツララ!」
「スプーン貰ってきたぞ」
アラタはガバッっと顔を上げ私の方を見て言う。
すると購買でスプーンを貰いに行っていたリョウからお礼を言い受け取ると早速一口目のプリンを食べ始める。
「ん〜〜! 美味い。やはりプリンは最高だな」
「うまそうに食べるな……」
「戦いの再開に向けて状況を整理しておこう。サクヤ」
「うん」
サクヤは机下に忍ばせていたブラックウインドキャンプのマップを開いた。
そしてごそごそとブレザーのポケットを漁る。
「終了地点での配置はこんな感じだね」
ポケットから出したのは数個の色分けされているマーカー。
紫をカイト、青をゲンドウ。
黄色を第一小隊、白を私とリョウに見立てて配置する。
「この7つのマーカーが俺達ってことか」
「そう。敵のブルーグリフォンはこのあたりだ」
次に四角い黒いマーカーをブルーグリフォンに見立てて配置する。
「すげえな。全部覚えてるのか?」
「覚えてないのか。君は」
ヒカルの棘のある言い方にアラタは少しムッとした顔をする。
「まあ仕方ないよ。アラタが覚えてなくても。そのために僕が居る。
上空から戦況を俯瞰するのはクラフトキャリアのパイロットでもあるメカニックの仕事だから」
サクヤは覚えていなかったアラタのフォローを入れた。