□#08 会議
1ページ/4ページ



「本当に本当に大丈夫なんだな!?」
 水上家本亭三大神会場前にて。青年はグランの顔を両手で押さえ、何度も確認をとっていた。そうでもしないとグランは直ぐに瞳を反らすのだ。
「もぉ、だから本当に大丈夫だから…」
「けど!お前この間倒れてたじゃねぇか…」
 二日前。グランは側近の青年――大地に墓地で倒れているのを見つけられた。グランはその時のことをしっかり話さず、ただめまいがしただけ、などという風に誤魔化していた。大地は何かある、と見ていたがグランは頑なに話そうとしなかった。
 グランは心配する大地の手を取り、言った。
「本当に私の側近は心配屋さんね」
 そう言い、微笑む。大地はそんなグランを見て少し安心するが、それでも心配なことに変わりはない。
「…アクアちゃんだって代理に海月が出るんだろ?だったらグランちゃんの代わりに俺様が出たって…」
「それは駄目」
 グランはそう言い、大地の唇に人差し指をつけ、大地を黙らせた。
「それと、あんまり煩く言う気はないんだけど、こーゆー正式な場では敬語を使った方がいいよ。変に目立っちゃうから」
 そう言われ、初めて大地は三大神会議に出る者やその側近にじろじろ見られていることに気付いた。大地は眉間に皺を寄せ、少し周りに気を配り声のボリュームを落とした。
「うるせぇよ。俺様の方が年上なんだから別にいいだろ」
 グランは十六で、大地は海月と同い年で二十一だった。
「つーか、話そらしてんじゃねぇよ。俺様はな!お前になんかあったら、と心配して…」
「わかってるよ。…でもごめん。わかって」
「…グランちゃん」
 グランは大地の気持ちが痛いほどわかっていた。それでも、譲れない想いがあった。しなければならないことがあった。
「何かあったらすぐ呼べよ…?」
「うん」
「絶対助ける…っつても救えなかったけどな……」
 そう言い大地は更に眉間に皺を寄せ、悔しそうな顔をした。その顔はとても辛そうで、あの日のことを考えるとグランまで辛くなった。
「…大丈夫、もう大地君はあの時より強くなったし……。それに…」
 その時だった。会場の扉が開き、中から海月が出てきた。
「お待たせしました。あと三十分ほどで会議となりますので、会議出席者は会場に入場してください」
 出席者が次々と会場に入って行く。グランも会場に向かうと大地に背を向けた。大地はそんなグランの姿を心配そうに眺めていた。
「側近の方には待合室をご用意しております。案内しますので、こちらへどうぞ」
 海月が誘導係として動き出したのに着いていきながら大地は会場の方を気にして見ていた。大地は会場が見えなくなると、海月の隣を歩いた。
「よお、海月。分家男児のくせに俺様を差し置いて会議出席とは良い度胸じゃねぇか」
「貴方だって分家男児じゃありませんか。女たらしの変態のくせによく生意気な口がきけますね」
「うるせぇ、男が女好きで何が悪いつーんだよ!だいたい、てめぇはいっつも敬語でキモいんだよ!」
 大地は否定することもなく、海月の言葉に対して反論する。
「分家なんですから当たり前でしょう。貴方は本家の者には敬語を使った方がよろしいと思いますよ。せめて公式な場でくらい」
 更にグランから受けた注意と同じことを言われ、不機嫌そうだった。
「…グランちゃんと同じようなこと言うな」
「全く。本家の言う事くらい聞きやがれ、です」
 ファイといい、大地といい、相手が男だと海月の敬語はかなり崩れるのであった。水上家本家の男性は別だが。
「うっせぇ!…それより海月。頼みがあんだけど」
「貴女がその態度を改めると言うのなら聞いてあげないこともないですよ。内容によりますが」
「んだよ、俺様の頼みを断るっつーのか!?」
「そーゆー態度を改めやがれ、っつてんですよ」
「わーたよ!できたらな!」
 大地は投げやりにそう言った。だが、次の瞬間真面目な顔つきになった。そんな大地を海月は意外そうな瞳で見ていた。大地がこんな真面目なことを言うのは珍しい。いつも頼みと言うと金貸せとかそんなんばかりなのに、と。
「グランちゃんのこと、頼めねぇか?あいつ、一昨日倒れてたんだ…。昨日は何もなかったけど心配だからさ…」
 大地は恥ずかしかったのか、顔を赤らめながら、ぽりぽり頬を掻いていた。海月はそんな大地を見て笑った。
「な、てめ!人が真剣に頼んでんのに…!」
「す、すいません…。あまりにもおかしかったもので…」
「貴様ぁ…。俺様の真剣な頼み事をおかしいとか言いやがって…」
「了解しました」
 海月は大地の文句を無視し、それだけ言うと、目の前の部屋のドアを開けた。そして「こちらです」と言い、側近たちを中に入れた。大地は不満そうに海月を見ながら中に入って行った。
「会議が終了し次第、呼びに来ます。お手洗いは来た道を戻って右に行くとあります」
 そう言い、海月は一礼し、待合室を出た。そして、会議室に着いた頃は既に会議の始まる十分前だった。

























*
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ