□#06 束縛
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「だいたい貴女は!何なんですか突然乗り込んできて!」
「あたしが今乗り込んでくる理由は一つしかないでしょ!」
「そういうことを言っているのではありません!貴女はもう少し自分の立場をわきまえた方がよろしいのではないでしょうか?」
 海月とフレアが口論してるのをアクアはぽかんと口を開け眺めていた。三日ぶりに部屋を出ようとしたら突然の訪問者。そしていきなり首絞め。この状況に着いていける方がおかしい。
「あ、あの…」
 二人の口論は止む様子が全くないので、アクアは遠慮がちに声を出す。
「何言ってるのよ!自分の立場をわきまえた上での行動に決まってるじゃない!だって私は――…」
 聞きたくない!
 アクアは反射的にそう思った。だって、その言葉の続きは…。アクアの胸がちくり、と傷んだ。
 アクアのその願いが叶ったのか、その時アクアのお腹が大きく鳴った。
「…あ」
 口論をしていた流石の二人も口を閉じアクアに注目した。アクアは恥ずかしそうに顔を赤らめ、お腹を抑えていた。
 海月はそんなアクアを愛しそうに見つめ、微笑んだ。
「食事にしましょうか、アクア様」
「で、でも…」
 海月はアクアの手をとり、部屋を出ようとする。アクアはそんな海月とフレアを交互に見ながら不安そうな顔をする。フレアの表情は相変わらず怒りで覆われていた。
「待ちなさいよ!話はまだ終わってない!」
 ストレートに怒りをぶつけるフレアに対し、海月は事務的な口調で返す。それが一層フレアの怒りを湧き上がらせてしまったことは言うまでもないだろう。
「他神といえど、分家の者。分家の者と本家の者では優先順位は明らかに本家の者にあります」
 しかし海月の言っていることは正論だ。“戦時中”なら他神であればそんなのは一切関係なかった。しかし今は神々が互いに手を取り合っている。そしてその関係は決して強固と言えないのが現状だ。…幼いアクア達にはわからないだろうが。それでも多かれ少なかれそういった知識はある。流石のフレアもこれ以上怒りをぶつけるのは小さいことかもしれないが、一族に泥を塗ることになるということがなんとなく理解できたのか、唇を噛み、悔しそうな表情をした。
「話はあとで伺いましょう。今はお引き取り願います」
「…口洗って待ってなさいよ、水上アクア!」
 アクアを睨みつけ、フレアは逃げるようにその場を去って行った。
「…口?」
「首ですね」
 首を傾げるアクアに海月が冷静につっ込む。フレアはあまり頭が良いとは言えないようだ。





*




 アクアは三日ぶりの食事を終え、洗面所へ行き、歯ブラシに歯磨き粉を付ける。
「…な、何してるんです?アクア様…」
「ふぇ、ふぁって、ふひあらっふぇまっふぇろっとふへあふぁんふぁ(訳:え、だって、口洗って待ってろってフレアちゃんが)」
 海月は頭を抱え溜息を吐く。頭が弱いのはアクアも同じらしい。
「…だからって、歯ブラシで唇磨かないでください!それと口じゃなくて首ですから!」
「ふぁあ…(訳:じゃあ…)」
「だからって歯ブラシで首洗わないでくださいよ!!!しっかり歯磨きしてください!!」
 言葉をそのまま捉えるあたりは純粋というべきなのか、馬鹿というべきなのか…。海月は自分の教育がなっていなかったのだろうか、と頭を抱えるのであった。
 しかし同時に微笑ましいことでもあった。三日間引き込もっていたわりには元気そうだ。
「…みふひ?(訳:海月?)」
 アクアに呼ばれ海月は初めて自分がしていることに気付いた。無意識にアクアの髪を撫でていた。本来ならすぐにでも手を引っ込め、謝るべきであるし、海月なら必ずそうするであろう。しかし海月は手を引っ込めるのが名残惜しく感じた。
「…良かったです」
 言葉は自然に出てきた。海月はアクアの頭に手をのせたままそう言った。相変わらずアクアはきょとんとした表情で海月を見つめていた。歯磨き中でなければ海月は間違いなくアクアを抱き締めていた。
「いつものアクア様で…本当に、良かったです。おかえりなさい」
 今までで一番と言ってもいいほど優しい笑顔だった。
「…ただいま」























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