□#03 始動
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「学生二枚」
 水族館の受付でそう言い、ファイが財布からお金を出す。
「あ、お金…」
「こーゆーのは男が出すもんなんだよ」
「けど…っ」
「それに金持ってきてねぇだろ」
「…うっ」
 ファイの言うとおりだった。だって、突然出かけるって言われたから、お金かかるとこに来るなんて思わなかったし…。いや、何処行くか分からないからこそちゃんと持ってくるべきだったのかな…。今学習しました、水上アクア!
「恋人なら只今5%引きとなっていますが…」
「いや、違…」
 本当にそうだったら、どんなにいいのかな。なんて思いながら否定しようとしたら、私が言い終わらないうちにファイが、
「そうです」
 と笑顔でそう言いながら、未だに繋いだままの手を受け付けの女の人に見せる。顔が一気に熱くなる。海岸で繋いでから何故かずっと繋ぎっぱなし。嬉しいは嬉しいけど…。緊張するっていうか、何というか…。私、変な汗かいてないかな?いや、かいていたとしても、それは相手がファイだからじゃなくて、夏で暑いから、ってことにしておこう。というか、お願いだからそう思って下さい、ファイ様!
 チケットを手渡しながら受付の女の人は「若いっていいわねぇ」と呟いていた。
 少し歩いて、受付が見えなくなったところで、回りに聞こえない様に小さい声でファイに言った。
「ちょ、ファイ!これって一種の詐欺じゃ…」
「別にいいだろ。金払うの俺なんだぜ?」
 だったら払わなくてもいいよ、って言おうと思ったけどやめた。だって、お金持ってきてないし。そんなこと言ったらファイ怒っちゃって帰るって言い出しそうだし。そんなの絶対嫌だもん。…それに、今日は少しだけ。この手を離したくない…。
「…お金、あとで返します」
 それでもこればっかりは流石に悪いので…。
「…いらねぇ」
「えっ」
「…第二の誕プレ。これで文句ねぇか?」
 そう言い、手を繋いでいない右手の方で私のブレスレットをつついた。つけてるの、気付いててくれたんだ…。
「…それじゃあ…お言葉に甘えて頂きます」
「ん」
 今までで一番嬉しい誕生日プレゼントかも。だって、これあれでしょ?デートってやつでしょ?誕生日プレゼント=デートって!
「にやけててキモイ」
「キモ!?」
 確かに無粋なこと考えていました。ごめんなさい!でも乙女に向かってキモイは酷いと思うな!
「…で?」
「え?」
「どこ行きたい?」
 顔が綻んでいくのが自分でもわかった。
「イルカショー!イルカショー!ショーは絶対全制覇したい!!」
「はいはい」
 子供かよ、と少し呆れながらも、いつだって私を優先してくれる。そんなファイが好き。大好き。
 …決して、赦されない想いだとしても。



*






「これから、何が起こるかも知らないのにデート、なんてお気楽ね」
「ふふ。まあ、いいじゃないか。あと少しで全部終わるんだから」
 少し離れた場所で二人の少女が私達をじっと見ていた、なんてことも知らずに。これから何が起こるか、なんて何も知らずに。
「リーフ」
 私は繋がれた手の温もりを感じながら、笑っているのでした。































*
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