□#01 式典
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「アクア様!!アクア様!!」
 家じゅうの者が一人の少女の名を呼び、探し回っていた。家、というよりも城に近かった。昔を感じる書院造の大きな建物。そして建物のあちこちに雫のような宝石が埋め込まれていた。




「…いいのか、行かなくて」
「だって、堅苦しいの嫌いだし」
 そんな様子を少し離れた家――というよりも城から二人の男女が眺めていた。
「そうじゃないだろ?アクア」
 アクア、と呼ばれた蒼い瞳に海色の長い長い髪をツインテールにした少女。そして、彼女の額には彼女の家にあったような宝石が埋め込まれていた。
「ファイには何でもわかっちゃうんだよね…」
「幼馴染だからな」
 そう言うファイと呼ばれた赤髪に朱色の瞳をもつ少年。彼の右腕には炎のような宝石が埋め込まれていた。それと同じ宝石が今、二人がいる家のあちこちに同じように埋め込まれている。
 ファイは得意そうに笑った。人懐こい笑顔だった。
「何か…怖いんだよね。私が私じゃなくなっちゃいそうで…」
 そう言ってアクアは俯いた。ファイはそんなアクアを見て溜息をつくと、アクアの髪がぐしゃぐしゃになるほど、強く頭を撫でた。
「ちょ、ファイ!やめてよ、式典に出るために折角セットしてもらったんだから!!」
「そう思ってんなら早く行きやがれ」
 ぶっきら棒な言い方も、強く頭を撫でるのも、不器用なファイの優しさだとアクアはよくわかっていた。だからこそ、それをして欲しくて、ここに来た。それでもまだ少し足りなくて、もう少しファイに甘えていたい、と思う気持ちもあった。
 まだ足りなさそうなアクアの顔を見ると、ファイは「仕方ないな…」と呟きアクアをお姫様抱っこし、歩き出した。
「ちょ、ファイ?!」
 突然なことにアクアは顔を赤らめる。それも無理はない。ファイはアクアの想い人、なのだから。そして、それはファイにとっても同じだった。ただ、まだ二人とも恋人とはなっていないが…。
 素直じゃないアクアは「降ろして!」とファイの胸の中で暴れる。そんなことをしても、男であるファイに敵うはずはない。
「あんま暴れんなよ。落ちても知らねぇぞ?」
「や、やだ!」
 アクアは慌てて、ファイにしがみ付く。そんなアクアをファイは愛おしそうに見つめ、微笑む。





「アクア様!」
 ファイがアクアを抱えたまま、アクアの家へ向かっていると、正装をした童顔の海色の髪に蒼い瞳をもつ男が立っていた。
「やっぱり、ファイの糞野郎のところにいたのですね!」
「海月…」
「オイ、コラ。てめぇ、糞野郎って何だ。糞野郎って!」
「煩いですね。汚い手でアクア様に触れないで頂けますか?これから式典なのですから」
 海月、と呼ばれた青年とファイの相性はかなり悪いらしい。会った瞬間、睨みあっている。というのも、二人が恋敵だからなのだが。
「ちょっと、二人とも止めてよ!それと、ファイはもう降ろして!」
 そんな二人を慌ててアクアが止め、溜息をつく。ファイはしぶしぶアクアを降ろすと先程と同じように頭を撫でた。
「ちょ、ファイ!」
「あんま、心配すんなよ。お前はいつも通りのお前だよ」
 そう言うとファイはくるりと向きを変え、来た道を引き返した。アクアはファイに触れられた髪を嬉しそうに撫で、笑った。海月は自分ではそんな顔をさせてやれないことを悔やみながらも、アクアが笑ってくれたことに安心した。
「アクア様、急ぎましょう。そろそろ海巳様もお戻りになられる頃です」
「うん。迷惑かけてごめんね」
「何を言っているのですか、今更。これが分家の務めですから」
 海月はアクアの従兄で、側近でもあった。












 日本では、古来から全てのものに、神が宿るとされていた。

 ありとあらゆるところに神々が人間の形を成し、それぞれの役割を果たしつつ、人間と変わらない生活を共にしてきた。

 その、代表として、“水の神”“火の神”“緑の神”“土の神”“全の神”がいる。
 
“水の神は”水の力を持ち、海色の髪に蒼い瞳をもつ。そして、額には雫のような宝石が埋め込まれている。

“火の神”は火の力を持ち、赤色の髪に朱色の瞳をもつ。そして、右腕には炎のような宝石が埋め込まれている。

“緑の神”は植物の力を持ち、黄緑色の髪に碧色の瞳をもつ。そして、胸元には葉のような宝石が埋め込まれている。

“土の髪”は土の力を持ち、黄色の髪に茶色の瞳をもつ。そして、左腕には地のような宝石が埋め込まれている。

“全の神”はこれら、全ての神の力を持ち、黒い髪に黒い瞳をもつ。そして、額、両腕、胸元の全てに各宝石が埋め込まれていた。



 これらの神は人と同じくらいの寿命を持ち、代々女の末っ子が力を受け継ぐことになっている。末っ子が十六になるまで姉は十年間、仮の神となり、末っ子に力を引き継ぐことになっている。
 そして。今日で十年。












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