短編

□一歩先は境界線でした。
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 「好き」の境界線って何処なんだろう。付き合いたいとかずっと一緒にいたいとか、そう思ういわゆる恋っていう意味の好き。バカみたいにふざけあって笑いあう友達の好き。或は全く会ったことない人、例えば芸能人だとか憧れという意味の好き。全部同じ言葉の響きで片付けてしまうにはあまりにも異なるもののように思える。最近私はこの「好き」の境界線、について考える。例えば、幼馴染のアイツに寄せる思いが友情の好きなのか、はたまた恋愛の好きなのか。一緒にいて楽しいし、バカみたいにふざけ合うし、ずっとそばにいたいとは思うけど、付き合いたいとは思わない。でも恋ではない、とは言えないと思う。
「久々にどっか行こうぜ」
 スマホの画面に映るたった一言の文章を見ながら、こんなふうに意識するなんてバカみたいだって思った。なんで突然こんなことを考え出したんだろう。わからない。しいていうなら夏の暑さのせいかもしれない。
 暑さのせいで溶けだしたアイスを嘗めながら「いいよ」と返信した。するとすぐに「暑いしプールでも行こう」と返ってきた。
 プールかあ。水着かあ。
 水着って嫌いなんだよなあと思いつつ、いいよ、と返信した。どうせアイツだしなあ。私のスタイルが悪いなんて、そんなのわかりきっているだろうし、今更恥ずかしがる必要なんてないよなあ。
 ピロリン。
 アイツからの返信かと思って開いたら違った。友人からのLINEだった。気になる男子と今度一緒に出掛けることになったからどんな服着たらいいかとかそんな内容だった。知らねえよ。寧ろ私が聞きたいよ。そう思いながら、あえて既読をつけずにスマホを閉じた。
 いいなあ。
 素直にそう思った。そうだよ、私は友人とは違う。今更お洒落したって、アイツは普段の私の芋ジャージにぼさぼさの髪の姿を知っているんだから。だから今更お洒落したって…。
 本当はわかってた。
 恋と友情の好きの違い。それを説明しろ、と言われたら無理だけれど、アイツへの好きが、恋か、友情か。そんなのとっくに答えは出てたのに…。
 今更、言えるわけないじゃん。
 今更、幼馴染以外の関係になれるわけないじゃん。

「お待たせ〜!」
「ううん、平気」
 この会話だけ聞けばまるでデートみたい。でも全然違う。こういう時、女の子はいつもよりお洒落して、時間をかけすぎちゃって、少し遅れてくるんだろうな。でも私はいつもアイツと会うから、いつもより気合いなんて入れたらなんか変だし。適当な服を着て、時間より少し早くやってくる。
 …暑いなあ。
 夏の日差しを恨みながらそう思った。
 少し歩いて、プールについた。ウォータースライダーのある大きなプール。昔沢山アイツとよく来た。小さいことからよくやってきたっけ。昔アイツ、泳げなくてさ、それで私が教えてあげたんだよなあ。今ではしっかり25m泳げるようになったし、身体もしっかりしちゃって…。
 ふと境界線のことを思い出した。好き、の境界線を。慌てて忘れようとして首をぶんぶん振ってたら暑さで頭でもおかしくなってきたかとからかわれた。誰のせいだと思ってんだ。
 プールに着いたら着替えて、泳いだ。水は冷たくて暑さを忘れられる。このまま、暑さを忘れられたらいいのに。
 好きの境界線って厄介だ。
 数十分泳いだところでウォータースライダーに乗ろうと言われた。アイツが先に滑っていった。アイツの背中を眺めて、境界線を思う。
 言葉にするのは難しい。
 でも、手紙にすれば、言えるかな。
 そう思って、手に握りしめていた、手紙を入れた瓶を滑らす。
 このまま水に流れて消えてしまっても構わない。そしてそのまま暑さが消えちゃえばいいんだ。
 川とか海に瓶に詰めた手紙を流すことはよくある。でも私はウォータースライダーに流すっていうね。変なの。
 でも、本当にウォータースライダーみたいだったんだよ。だんだん加速していくウォータースライダーみたいに。どんどんどんどん暑さが増していって、気付いたら境界線を越えちゃったんだ。
「…大好きだよ」
 アイツには届かない。誰にも聞こえない。私しか聞こえない、本音を零して、滑った。どんどん加速していって、水に飛び込んでいった。水の中で瓶が底に落ちて、浮かんでいくのが見えた。






end
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