番外編

□約束
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 これはいまから十年も前のこと。
 虫の音がすっかり秋になったことを告げる。虫は気持ち悪いから少し嫌いだけど(そんなこと言ったらリーフに怒られちゃうけど)、鳴き声は涼しげだから少しだけ好きかな。…なんてことを思いながら幼き少女―――アクアは思う。自分の背より遥かに高いススキを掻き分けながらどんどん前に進んで行く。そのせいで少し髪が乱れ、服や土で汚れていた。やがて、ススキ道を抜けると目の前に海が広がった。
「わあ…」
 きれい、と思わずアクアは声に出した。声に出さずにはいられなかった。目の前の美しい光景を見てアクアは感動していた。
「まてよ、アクア。たく、おまえはこーゆーときばっか、はえーんだか…」
 そう言いながら少年、ファイはススキを掻き分け、ようやくアクアに追いつく。そして目の前の光景を見て、言葉を失った。
「…すげー」
 目の前に広がる、海。そして真っ暗な夜空を照らす真ん丸なお月様。月の光がきらきらと海に零れていて、世界を照らしていた。そう、今日は十五夜だ。
 二人は暫くその光景をじっと見つめていた。ほっぺたを赤く染め、瞳をきらきらと輝かせて―――…。二人は無意識に手を繋いでいた。
「なあ、アクア」
 その美しい光景を見つめながら、ファイは言った。アクアの手をしっかり握りながら。
「らいねんもまた、ふたりでこようぜ」
「…うん!」
 来年だけじゃなくて、再来年も、その次も、その次の年も、その次の次の年も!二人で、ずっと…。
 二人は手を繋ぎながら十年先の自分たちを想像する。十年後もこうして一緒に月を見ていられることを夢に見ながら―――――…。





















END
 

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