頂き物

□夢の邂逅
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「……ん……」

頬に柔らかい感触を受けて、ノエミは目を覚ました。
「あれ? ここ……」

目を開けて一番に見えたのは、頬の横でそよぐ小さな花。
辺り一面は可憐な花で覆われて、甘い芳香が霧のように立ち込めている。しかし、先程まで居たはずの神々の庭の花園ではない。

ゆっくりと起き上がってみると、花の溢れる野は延々と、靄にけぶって見えなくなるまで続いていた。

髪やスカートについた花びらや草を軽く払うと、ノエミは花の咲き乱れる野をおずおずと歩き出した。

途方もなく美しい風景だか、辺りには誰もいない。一体何故このような場所に来てしまったのかもわからない。ここは天界の何処かなのだろうか、それとももっと別の場所なのか、それすらも。

「どうしよう……そうだ、お兄ちゃん!」

見知った人間が誰も居ない状況で、ノエミはいつも身に付けているペンダントに収まった双子の兄を思い出した。しかし……

「あれ? 無い!うそ……」

慌てて探すが、首にも、スカートのポケットにもペンダントは無かった。

「どこかに置き忘れて来ちゃったんだ……!」

ノエミはぼーっとしたままペンダントを扱った事をここへ来て思い出し、そして心底後悔した。

「うわぁ〜ん!どうしよう〜!」

今まで文字通り片時も離れる事なく一緒に居たノエルさえもこんな時に限っておらず、ノエミはいよいよ混乱と心細さのあまり涙声を上げた。


「誰かいるの?」


突然投げ出された境遇に嘆いていると、ふいに何処かから美しい声が掛かった。
驚いて振り向くと、たなびく靄の向こう側から誰かが近付いて来る気配がした。
さくりと草葉を踏む音が聞こえて、靄に包まれていた人影が現れる。その姿を見て、ノエミは思わず息を呑んだ。

目の前に現れたのは長い髪をたなびかせた少女だった。
歳はおそらくノエミと同年代くらいのはずだが、不思議な事にその髪は海のように青く、額には宝石のような美しい石が埋め込まれている。こんな人間は見たことがない。
しかし、目の前の少女は恐ろしさや不気味さとは無縁の優しい雰囲気を纏っていた。


驚く要素が多過ぎて、ノエミが固まっていると、青い髪の少女は心配そうに声を掛けて来た。

「あの、大丈夫?」

「え? あ! あの、はい!大丈夫です」

ノエミは慌てて返事をする。少女は少し不思議そうな顔をしたが、やがてにっこりと笑った。

「そう、なら良かった」

それは何にも形容し難いくらい美しい微笑みだった。先程までの不安等、いっきに掻き消えてしまう程に。
思わずうっとりして見入っていると、美しい少女は更に言葉を続けた。

「あまりにも静かだから、誰も居ないのかと思ってたの。良かった、人に会えて」

それを聞いて、ノエミはぴくりと反応する。

「え? あなたも?」

ノエミの一言に、今度は少女の方も目を丸くする。少しの沈黙が流れた後、どちらからともなく小さな笑い声が溢れた。

「私達、どっちも迷子みたいだね」

「うん、そうみたい」

少女の言葉に、ノエミは笑いながら頷く。

「ね、名前教えてくれる? 私はアクアっていうの。 水上アクア」

青い髪の少女はそう言って無邪気に笑う。その笑顔につられて、ノエミも照れながらも笑顔を作った。

「私はえっと、ノエミです」

「よろしくね、ノエミちゃん」

アクアと名乗った少女はしなやかな手をノエミに差し出す。
ノエミはその手をすんなりと握り返した。





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