学園祭-前半-(20)

□佐助×幸村
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「佐助ー!早う早う!」

「はいはい…そんなに急がなくても大丈夫だって」

10cmは降っただろう、雪道をサクサクと踏み締めて、佐助としては慣れた通学路を歩いていく。

結局昨夜は別々の布団で寝ていた筈だったけれど、朝起きたら幸村が侵入してきていた。"一緒に寝る"のが普通だったから。起きて目の前に幸村の顔があった時は驚いたけど、いや、今日は何もしないで寝たよね俺たち…と心と下半身を落ち着かせ、ようやく家を出てきたところ。合格発表はすでに始まっている。

「あんま騒ぐと滑るよ」

「む、受験生に滑るなど言うな」

ぷぅと膨らませた頬は寒さに紅く染まっていて、摩り下ろして食べたら美味しそうだった。なんてまさか本当にやる筈ないけれど、佐助だって餓えは限界に近い。合格したらのシチュエーションは既に用意済みだ。

そんな事を考えているうちに、合格発表掲示中と書かれた看板の横を通り過ぎる。やはりそこは人だかりが沢山出来ていて、合格に噎び泣く者、あと一歩届かずに悔し涙を流す者、皆それぞれだ。去年は佐助もそれを経験した。今年は幸村の番。頼むから受かっててくれよ!今更遅いかもしれないけれど、険しい顔で掲示板の前に立つ。

「旦那はそっちの端から見ておいで」

「うう…どきどきでござる!」

先ほどまでの威勢の良さはどこへやら、心なしか尻尾までしゅん…としな垂れてしまっている幸村が指差された方向へと歩いて行く。

実はそっちの方が、幸村の受験番号に近いと知っていてわざと行かせた。自分が見つけたのではつまらない。並んだ数字の列をぼんやり眺めながら、幸村の反応を待つ。合格か否か、佐助にだって分からない。


「…あ!佐助ッ!!」


あったでござる!ぴょんぴょん飛び跳ねながら、幸村がこちらへ近付いてきた。よっぽど嬉しかったのか、そのまま佐助の胸にダイブ。手加減もなにもないそれは少し痛かったけれど、そんな事よりも、今は。

「合格おめでと、旦那!よく頑張ったね。えらいえらい」

これで春から、また一緒の学校に通える。幸村の喜びは佐助の喜び。猫っ毛をぐしゃぐしゃに掻き混ぜながら、馬鹿みたいに喜び合っていた。一安心したのか、幸村の眦にはうっすらと涙が浮かぶ。参ったなぁ、泣きたいのはこっちも一緒なんだけど。でも幸村の前でなんて恥ずかしいし、万が一クラスメイトになんて見られたらいけない。代わりにゴツンとぶつけた額の痛みで紛らわせてみた。

「んー。じゃあおうち帰ったらご褒美かなー」

「ごほう、び…?」

「そう。ご褒美」

欲しくなぁい?思わせぶりに耳元で囁くと、じわりじわり、幸村の瞳が潤み始める。ダメだよ、まだそんな顔しないで。フッと笑みを浮かべると、手袋越しの手を引いて家路を急いだ。

 
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