学園祭-前半-(20)
□元親×幸村
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「メールの、本当なのでござる」
「…そうなのか」
その、政宗からの受信メールが入っているであろう携帯を手の中で弄りながら、幸村はぽつりと言った。消えそうなくらい小さな声だったから、危うく聞き逃してしまうところだった。
「なんて返事したんだ」
「断った」
だっておれ、男でござるもん。
遠くの砂場を見ながら、フフッと笑う。口元は笑っているのに、目は酷く傷付いていた。無理して笑う事なんかねぇよ。そう言ってやりたかったけれど、今の元親にはそんな余裕なんて存在しなかった。
「……もし、告白したのが俺だったら」
「え?」
「俺が、お前のこと好きだって言ったら、どうする?」
政宗と同じ断り方をするか、それともただの幼馴染でござろう?と一蹴されてしまうか。
「好き…?」
「そうだ。あいつと、…伊達と同じ意味でな」
幸村の心に追い討ちをかけたかもしれない。一日で、二度も男に告白されるなんて。けれども元親にはこれしか残されていなかった。焦ったといえば、そうかもしれない。くよくよ悩んで誰かに取られてしまうくらいなら、きっぱりと断られて諦めたほうがいくらかマシだ。
「……っう…」
「お、おい!泣くなよ」
隣のブランコに腰掛けていた幸村が、うう…と嗚咽を漏らす。
元親は慌てて立ち上がると、幸村に近付いた。逃げられないのが不思議だった。ハンカチなんて持ってないから、指の腹で流れ落ちる涙をそっと拭う。
「こ、こわか…っ」
怖かった、それだけ幸村は言ってまた泣き出した。
政宗に言われたのが、それとも俺に言われたのがか。どちらもかもしれない。
「ちか兄っ!!」
「うおっ!?」
涙で顔をぐちゃぐちゃにしてしまった幸村が、突然元親に抱き付いた。抱き付いたというか、飛び付かれたようなもので2人してそのまま地面に転がった。後頭部を強かに打った元親は、痛みに中々目が開けられないでいる。さっきから顔に落ちてくるのは幸村の涙か。
「おれも…っ好き、好きでござる!」
都合のいい幻聴まで聞こえてきた。が、どうやらそれは現実のものであったらしい。ゆっくりと目を開けると、幸村が顔を真っ赤にしながら覗き込んでいた。涙で瞳が溶けてしまいそうだった。
「…いいのか。俺は都合よく受け取るぞ」
「だって、おれは……っ!」
何か言われる前に、顔を引き寄せて唇を重ねた。
「俺も怖かったぜ。好きだって言ったら、お前に嫌がられちまうんじゃねぇか…ってな。ずっと悩んでた」
「おれ…ずっと前から、ちか兄のことっ…」
「気付いてやれなくてごめんな、幸村」
年下に言わせようとしていたなんて、なんて情けない。臆病になりすぎて、相手の気持ちを考えるなんてできていなかった。
思えば今日、元親を昼食に誘ってくれたのも、そういう意味があったからかもしれない。よっぽど幸村の方が度胸があった。他人にばかり神経を尖らせて、不貞腐れていた自分はなんて小さい人間だったんだろう。
もうみっともない所なんか見せやしない。誰の目からも守ってみせる。
「ち、か…ちか兄ぃ…っ」
「おい。その呼び方じゃ味気ねぇだろう」
次呼ぶ時は元親だ、いいな?
いつもの調子ではい、"ちか"まで出かかった唇を再び塞いで、しょうのねぇ奴だなと砂だらけの身体で抱き締めあった。
end...