学園祭-前半-(20)

□元親×幸村
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(やれやれ…参ったぜ)


帰宅後。ベッドの上で携帯を弄りながらひとり愚痴る。

帰り際幸村を見かけたけれど、声をかけるのも気が引けて結局ひとりで帰ってきてしまった。部活があると言っていたから、どうせ一緒に帰れはしなかった。幸村の家は二軒隣だ。逢おうと思えばすぐ逢えるし、休みの日には遊びに来る事だってある。それは小学校の時と比べてずいぶんと減ってしまったけれど。

昔、小さかった時の幸村を思い出す。今みたいにちかにぃと舌足らずな声で自分を呼んで、ちょこちょこと後を付いてきた。よく転んではびーびー泣いて、大きな目を真っ赤にしていた。

外で遊ぶのが大好きで、元親と一緒に公園で遊んでいた。元親が中学に上がると、とても寂しそうにしていたのを覚えている。大丈夫、あと2年したらまた、同じ学校に通えるんだぜ。中学の時はそれで良かったけれど、高校となれば話はまた変わってくる。幸村が元親と同じ高校に入学しない限り、それはありえないのだ。

ひょっとしたら専門課程のある高校に行ってしまうかもしれなかったし、同じ高校を選んでくれたと知った時には元親のほうが喜びが大きかったと思う。家から近かったから、なんて理由は二の次でいい。ただ、また少しの時を一緒に過ごせると思えば天にも昇る気持ちだった。

(あいつも…大きくなったな)

身長こそ元親に遠く及ばないけれど、今では170を超えた。当たり前だけど、昔にくらべて少し男らしさは増した。逆に幼さと大人っぽさが混同するあたり、妙に魅力が出たと思う。

いつからだろう。幸村を、自分のものにしたいと思い始めたのは。それさえも忘れてしまう程前から、同じ気持ちに悩み続けている。言って断られるくらいなら、現在の地位に居続けたほうがいいだろうか。なんて臆病な、それでも一歩踏み出す勇気が出なかった。

自分から、離れていってしまうのが怖かったから…―――
















「…ん……?」

いつの間にか寝てしまっていたようだ。携帯を見るとそろそろ夕飯の時間だった。ついでに一件のメール受信。時刻はたった今。つまりこれの着信で起こされた。なんだよ、どうせならギリギリまで寝ていたかったと思ったけれど、そのメールを送ってきた相手は幸村だった。






政宗殿に、告白された。





たっぷりの空白のあとに、この文字列だけが打たれていた。

政宗?あの、今日も逢った男。後で覚えておけとは、幸村にではなく元親に対しての言葉だったのだ。ぼんやりしていた思考が一気に覚めた。

受け入れたのかも、断ったのかもどちらも書いていなかった。お前はどっちを選んだんだ、幸村。気が急いで頭が混乱する。逢えるなんて保証はなかったけれど、携帯だけ掴んで部屋を飛び出した。母親がご飯いらないの?と掛けた声も無視して。

「…っ!」

「ちか兄」

「幸、村…」

家の玄関を開けてすぐ、少し先の門の前に幸村が立っていた。まだ制服のままだったから、部活から帰って来てそのままなのだろう。メール、見たぜと言ったら幸村の肩がびくりと跳ね上がった。何か話があるようだったから、よく遊んだ近所の公園まで歩いた。夕刻のこの時間、子供の姿はもう無い。

 
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