学園祭-前半-(20)

□元親×幸村
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「ちか兄、ちか兄!」

「おう、ちょっと待ってろ」


昼休み。食べ盛りの幼馴染は待ちきれなかったのか、元親の教室までやってきた。

ここへ来るまでに一度昇降口を出るか、2年の校舎を突っ切ってこなければいけない。その間も幸村の姿が他の男共に見られているのかと思うと無性に腹が立った。あれは見た目がとても可愛いから、男子校の中ではとびきり目立つのだ。

「今日悪ぃけど学食なんだ」

「じゃあ、幸村も一緒に行くでござる!」

連れ立って学食へと向かう。やはり、右手にはお決まりの弁当袋。これは毎朝従兄が作って届けてくれるらしい。確か2年で、佐助とか言っていたか。カニさんやらタコさんのウインナー、ひよこのうずらの卵。うさぎ型に切られた林檎。どう考えたって高校生の弁当ではない。幼稚園児にでも作ってやればたいそう喜ぶものだろうけど、それを持たされているのに幸村は文句ひとつ言わずに全部平らげるのだ。

馬鹿にしているのか、いや、ただ馬鹿にするだけならこう毎日毎日弁当を作ったりはしないだろう。そいつも絶対幸村に気があるに違いねぇ。一応、元親のブラックリストにはランクインしている。

「すぐ戻ってくるな」

「はーいでござる!」

日当たりのいい、けれど眩しくはないようにブラインドを下ろした窓際に陣地を張る。今日オススメのB定とやらを取るために、元親はカウンターの列に並んだ。

早く戻らなければ、律儀な幼馴染のこと目の前の弁当に手を出さずに待っていることだろう。元親が戻るのを待って、今か今かと椅子に腰掛けた足をプラプラしてる姿を想像すると、危うく頬が緩みそうになる。おっといけねぇ、頬を締め直すとコースの皿を受け取って、ついでに幸村が好きそうなおかずも取ってから陣地へと戻った。



「…よォ。長曾我部先輩」

「なんでテメェがここに居んだよ…」

2人掛けの特等席、弁当を広げた幸村の反対側にちゃっかり座る男。伊達政宗。幸村のクラスメイト。元親と反対側の目に眼帯をしている。

特徴的な容姿だったからこそ覚えていたが、伊達の名はこの学校内で相当に知られていた。入学早々喧嘩をし、停学を食らった異端児。実家はひょっとしたらヤのつくご職業ではともっぱらの噂だった。

「そこは、ちか兄の席ですぞ!お退きくだされっ」

「Ah…今日もつれねぇなァ」

しっしっと追い払うように手を振った幸村(よくやったと、撫で回してやりたい)は、ちか兄ごめんさない、政宗殿が勝手にと困った顔をこちらに向けている。だろうよ。幸村がこの男を苦手としているのを知っている。なんでもしつこくセクハラ紛いのことをしてくるとか。それだけでも即殺ものだけれど、日本の法律はそれを許してくれるほど甘くはなかった。

「俺に何か用かよ」

「まさか」

「じゃあ退けよ。ここからは俺と幸村の時間だ」

「ちか兄…」

ピアス穴だらけの耳を引っ張って、無理矢理邪魔者を立たせる。これは最も危険な男だ。元親が幸村に対して好意を抱いているのを見抜き、悪いが俺もだからと面と向かって宣言したとんでもない男。幸村から嫌われているとはいえ油断は禁物だった。どこぞの暗がりにでも連れ込まれて、なんて事になったら洒落にならない。

 
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