学園祭-前半-(20)

□瀬戸内×幸村
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告白された、その週末。



幸村は元就の家に居た。付き合い始めたのなら外に遊びに連れて行ってやるぞと元就は言ってくれたが、あいにく幸村に遊んでいる暇はなかった。

週明けに国数英の実力テストがある。3年の元就には、受験シーズンとあってか免除されているようだ。学年でもトップを独走する元就の成績の良さは知っていたし、だからこそ勉強を教えてくれとお願いしたら何だ、そんな事くらいと二つ返事で返してくれた。

そんな訳で勉強会を開いてくれたけれど、何やら気恥ずかしいのと、先程から俯き加減で解き方を解説してくれる元就の顔が、あまりにも近すぎて息が止まってしまいそうだった。

一般に美形と言われるだろうそれは、目の鋭さのお陰で冷たく見えるものの端整なものには変わりない。自分の童顔と揶揄されるものとくらべてどうだ、と幸村は思う。気にしてはいるけど直せるようなものではない。とても羨ましい。


「…どうした」

「え、あ…ッ」

「見惚れておったか?可愛いやつめ」

解説の合い間にはい、はいと打っていた相槌が止まったのを気付いてか、今日はフィルター無しの目と視線が合う。

「そんなに見られては、穴が開いてしまうわ」

「申し訳ございませぬ…」

「よい。集中が切れては勉強にならんからな。休憩としよう」

そう言って、幸村をひとり残し部屋を出て行く。妙に強張っていた肩をこきりと鳴らし、幸村は伸びをした。緊張していた所為で喉がカラカラだ。学校以外で元就を見ることがなかったから、意識し過ぎているのかもしれない。

悪いと思ったけれど、ぐるりと部屋の中を見回す。本棚が多くて、幸村が手を出しそうにない題名の難しそうな本ばかりが整然と並べられていた。高校を卒業したら、どのような道に進まれるのだろう。きっと、元就ならば何にでもなれる。

「しまったな…」

「あ、な、何か…?」

トレイにジュースと菓子を乗せて戻ってきた元就が、唐突に幸村と菓子を見比べて眉を寄せた。

「お前、甘いものは平気だったか」

「はい…その、好きでござるが」

好きもなにも、一日に一度は口に入れないとどうにも調子が出ない。この元就の家に来る前にも、地図が書かれた紙切れを片手にふたつに割れて食べやすいチョコレートを頬張りながら来たくらいだ。

元就は、それは良かった。お前の好物を聞くのをすっかり忘れていたぞと言うと、勉強中のテーブルにそれらを下ろす。

 
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