学園祭-前半-(20)

□瀬戸内×幸村
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「いや、よ。何の前置きもねぇまま言っちまったオレらも悪ぃが」

そんな返事じゃ、変に期待しちまうだろうが。置いてあった机に腰掛けて、頬杖を付いた元親が拗ねたように言った。また申し訳ございませぬと言いかけて、いい、お前は謝るなと遮られる。

「お、お2人の事は、嫌いではないのです」

どう言えば分かってくれるだろうか。足りない頭をフル回転させて考えてみた。けれど、幸村の望むような答えは出てこない。2人は言葉の先を待つように、じっと幸村の事を見ていた。

ああ、そんなに見ないで下され。いつもは恥ずかしいと思わないのに、こんな状況では照れるなと言う方が無理である。

「そうか。嫌ってはおらぬか」

「はい……」

「しかし我らどちらも選べぬと」

「それがしには、そんな権利はありませぬ」

「ほう?面白い事を言うな」

ならば我らが好きだと言うのにも、権利が必要だったか?幸村は首を振って否定した。

誰かに想いを告げるのは悪いことではない。恋はいいよと馬鹿みたいに喋るクラスメイトはそう言っていた。幸村としては、心に決めた相手のみとそうしたかった。と、言っても齢15その相手にまだ出逢えておらず、その気配すらない。特に意識もしていなかった。

「そうだ。こうしよう幸村」

「はい?」

「我か元親か、選べるまで付き合ってみるというのはどうだ」

「え…ええっ?」

「選べぬからと、断っておるのだろう。選べる相手がいれば迷うこもあるまい」

何か話がこじれてきた気がする。けれども、元就の弁舌はそんな幸村の考えを丸め込むように次々とまくしたてた。

「どうだ元親。異論はあるか」

「オレはねぇが…
幸村。嫌なら断っていいぜ」

選択肢は与えられた。頷くか、頭を下げるか。幸村自身が出した答えがこれから先、続くことになる。むしろ、仮にも付き合いだしてからごめんなさいの方が酷だ。そういう未来があると思うと怖くてうんと頷けない。

「そ、それがし…」

「お前に嫌と言われるなら仕方のないことだ。僻みもせぬ。だが、我がどれ程お前を好きなのか知ってほしいだけだ」

「っ…元就先輩」

泣きそうだった。

もしかしたら、もう泣いていたのかもしれない。

幸村はもう、はいと頷くしかなかった。それ以外の選択肢など、頭の中から出て行ってしまったのだから。

 
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