学園祭-前半-(20)
□瀬戸内×幸村
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「柄にもなく緊張しておるわ」
「元就先輩が、緊張?」
「何が可笑しい…」
その言葉が彼にあまりにも似つかわしくなくて、思わず吹いてしまったのを咎められる。あの、告白の時も余裕の表情だった元就が緊張などと。
「何か、熱でもおありなのでは」
「熱……そうだな。あると言えば、ある」
「えっ!!そ、それは大変でござるっ」
熱があるなら医者に行きませんと。幸村は立ち上がって元就の傍に寄った。失礼かと思ったけれど、その鋭い目の上にある額に掌を当てる。己の額と熱比べして、どうやら自分の方が熱いことに気付いた。
「〜〜〜っ元就先輩!」
「勝手に勘違いしたのはお前だ、幸村。熱とは、お前を愛しいと思う気持ちの熱さよ」
「…!…」
よくも恥ずかしい事を堂々と。今度こそ、幸村は絶句した。ぱくぱく開いた口が塞がらない。どうにも口では勝てる相手ではなかった。
「我は嬉しく思うぞ。もし、あの時お前が嫌と言うておったら今日という日はなかった」
「先輩…」
「答えに焦る事はない。我は急がぬつもりだ。ただ、こうして共に居られるのもいいというもの」
ゆったりと微笑んで、さぁ、これを食べたら再開だと何事も無かったかのようにチョコレートに手を伸ばしている。
どうにも、元就の言は心臓に良くない。あんな言葉を聞かされたら、寿命が縮まってしまうではないか!バクバクと高鳴る心臓は本当に煩くて、上から蓋でもしてやりたいくらいだった。
(そ、それがし…殺されてしまうのではないだろうか)
これがもし、何とも思っていない相手だったとしたら。こんなにも苦しい思いをせずに済んだだろう。
だが、あの時頷いてしまったのは幸村自身。事態はもう動き始めている。このままではどうなってしまうのだろうと、考え始めたところで思考を止めて、とりあえず用意されたチョコレートで感情のリセットを試みた。
それが無駄なことだったかどうかは、本人でさえも判っていなかった。