学園祭-前半-(20)
□久秀×幸村
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「?幸村、どうかしたか」
教授が黒板を消し新しい文字を書き始めても、進まない幸村の手を不思議に思った親友は心配そうに顔を覗き込んでいる。
「あ…いや。何でもないでござるよ」
平静を装ってみるも、一度意識してしまったら早々落ち着けるものではない。お願い、早く終わって。祈れば祈るだけ時計の針は遅く感じる。右隣の親友は夢の中に居るようだった。自分も寝てしまえば楽になれるのだろうか。
「…で、あるからにしてこの構造体は…」
スピーカー越しの声は脳に記憶される前に、反対側の耳から逃げていってしまう。
結局約2時間の講義で得られた収穫は、最初の10分で取ったノートだけだった。
「幸村。顔色が優れぬぞ」
講義が終わり、悪夢のような時間から解放されたというのに幸村は動くことが出来なかった。これから昼飯食いに行くけど、もちろん幸村も一緒に行くよな?夢から覚めてスッキリした顔の親友は楽しそうに笑う。
「う、うん。行くでござる」
軽く背中を叩かれ、それでようやく生きた心地を取り戻した。筆記用具をペンケースに戻すと、ノートと参考書もバックに押し込んで席を立つ。おいしいご飯食べて、忘れよう。それが一番だと親友達と共に教室を出た時だった。
「幸村君、ちょっといいかね」
「松永教授…」
今しがたの講義で教鞭を執っていた松永に声をかけられる。もう自分の研究室に戻ったのではなかったのか。まさか待ち伏せされていたのか。被害妄想が脳内を駆け巡る。
「今日の演習の件で話がある」
「そ…そうですか」
突きつけられた強制連行の通達に、目の前が真っ暗になった。それは嘘だ、分かっている。それでもごめん、先に行っててと踵を返すと、颯爽と歩く教授の後を追いかけた。
すっかり萎縮してしまった背中を見送った2人は、難しい顔を寄せ合う。
「…またか」
「最近よく一緒に居るよな」
「我らが詮索するものでもあるまいが…行くぞ長曾我部」
今、気付ければ良かった。
親友の身に何が起こっているのかを。
どうしてあんなに、怯えた顔をしているのかを―――――…