学園祭-前半-(20)

□慶次×幸村
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「ん〜〜…終わったでござるぅ」

椅子に座ったまま勢いよく伸びをして、その姿勢のままばったりと机に倒れる。長い一日がようやく終わってくれた。慶次の授業だけはやたらと短く感じるのに。

「旦那お疲れー。ねぇねぇ、今日の帰り駅前で遊んでかない?」

ひょいっと顔だけ上げると、愛嬌のいいクラスメイトがにこにこと話しかけてくる。

彼とは1年の時も同じクラスだった所為か、何かと幸村の事を気に掛けてくれる。部活のない日くらいは息抜きしなよと遊びに誘ってくれるのは嬉しいけれど、行ったところで慶次の事を思い出して余計に寂しくなってしまうのだ。教育実習なんてなかったら、外に遊びに行くこともできたのに、と。

「え…今日はいいでござる」

「今日も、だろ?幸村。最近付き合い悪ィんじゃねぇかー?」

「まぁまぁ…しょうがないよ。旦那にも用事ってもんがあるって」

じゃあまた明日ね、と心優しいクラスメイト以下4名が連れ立って教室を出て行く。その背中を見送りながら、ふぅ…とひとつ溜め息を吐いた。

(今日も、慶次殿はお忙しいのだろうか…)

一緒に遊びたいけど、我儘は言えない。慶次を困らせたくはなかった。

肩提げの鞄を掛けて、とぼとぼと教室を後にする。その後姿のなんと寂しげな事。寂しいんです、構ってくださいと看板を背負っているかのようで、ここ数日幸村の様子がおかしいと心配するクラスメイトの同情を誘った。今も、教室の中から幸村を見守るクラスメイト達が温かい目で見守っている。


その視線に気付くことなくてくてくと歩き続け、下の階へと続く階段に差し掛かった時だった。


「ゆっきちゃ〜んv」

「ぅ…モゴッ!!」

「しー……大きい声出さないで」

声の主は幸村の口元を掌で隠して、そんなに軽い訳でもない身体をずるずると引っ張っていく。視界を靡く長髪から見るにどう考えたって慶次にしか見えなかった。だからこそ暴れもせず、導かれるままにとある教室へと入っていく。カチリと内側から鍵を掛けられて、どきりと内心跳ね上がった。

「慶次殿!」

「あはは。乱暴してごめんね」

ごめんね、なんて本当に悪いと思っているのか、いつも慶次は簡単に笑い飛ばしていた。

「ね、寂しかった?」

「はっ!?」

「だって、今日俺のことずっと見てたじゃん」

「慶次殿だって、見てたではないかっ」

慶次の熱い視線に気付き、顔を上げていただけの事。まるで自分だけが悪いように言われて、少しだけ腹が立った。確かに、寂しかったけれど。

 
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