学園祭-前半-(20)

□佐助×幸村
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「すまぬな猿飛、助かる」

「いーえ、この位平気ですよ。

…それより、俺の事は佐助でいいんで。苗字呼びにくいでしょ」


思い立ったら吉日。


先手必勝とばかりに赴任したての教師に近付いた。

さすがに初日からこの教師の、幸村の授業は無かった。だるいだけの時間割、すべて睡眠で乗り切ってやろうと思っていた筈なのに、どうやってこの教師を堕とそうか…そんな事を考えているうちにあっという間の放課後。

バイトが無いのをいい事に、普段近付きもしない職員室の前を通ってみた。ちょうどダンボールが自走して…否、そう見えるくらい大きなダンボールを抱えた幸村が中から出てきたところだった。

にょきっと足が生えていたので一瞬ギョッとしたが、そう思ったのも束の間そのまま激突され両者K.O。

前が見えなかったのだ、すまんと頭を下げられ、俺はここに何しに来たんだっけ?と当初の目的を忘れるところであった。

案の定体育担当だった幸村は、体育教官室に荷物を移動するところだったらしい。俺も手伝うよ、しめたとばかりに言った言葉を鵜呑みされ、ちょろいもんだと嘲笑った。何も黒い事を知らなさそうな顔をして、無防備に笑顔を晒して。


「センセ、これどうする?」

「ああそれは…」

倉庫から引っ張り出してきたばかりであろう、埃をかぶっていた机をぴかぴかに磨き上げ、ダンボールの中のものを整理していく。幸いなことに他の教官は部活顧問やらで不在だった。俺、日頃の行い良過ぎじゃない?スーツの上着を脱ぎ、腕捲りしたシャツ一枚の姿で動き回る幸村に熱い視線を送った。

(あーもー…この可愛さで25なんてありえねぇ)

大学の卒業と同時に教員免許を取得したが、今まで大企業の駅伝部に所属していたそうだ。それなら、身体の線が細いのも頷ける。今回ここに来たのは叔父である校長の縁だと言った。しかし佐助は、そのあたりの話はさらっと聞き流している。

今はこの獲物をじっくり観察することが大事。近付いてみれば赤茶けた目もそれはそれは大きくて、思わず泣かせてみたい、などと思ってしまった事はこの教師には内緒だ。

 
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