学園祭-前半-(20)
□佐助×幸村
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幸村と名乗った教師は、己の名前を一生懸命黒板に書き殴っていた。振り向いた後ろ姿に、犬の尻尾のようにひょろっとした髪が揺れている。
(やべ……超好みかも)
己と同じ男なのは、いくら顔が可愛かろうと体格で分かる。そして、教師である以上自分より年上である事も。
一応スーツは着ているが、どう考えたって七五三のそれにしか見えない。隣のクラスメイトも、あれ俺たちと同じ生徒じゃねぇのかと不思議そうに観察していた。
背は多分、己より低い。この慌しさから言って、落ち着きはなさそうだ。
出身は体育系の大学か、そう思わせてしまうようなきゅっと引き締まった体躯。黒板に書いた字からして国語の教師じゃない事は言わずもがな。
この新しい担任の受け持ちは体育か、これは暑苦しい授業になりそうだと佐助は鼻で笑った。
「では出席を取るでござる。
…猿飛佐助!」
「…、はい?」
突然己の名を呼ばれ、人間観察に耽っていた佐助は一拍遅れて返事をした。
「おお、これは逆か。失礼仕った」
席順に生徒の名前が書かれているプラケースを見ながら、最前列はこちらかと佐助とは対角線上の席に居る生徒の名を呼ぶ。
まさかこの席に居る己が一番に名前を呼ばれるとは思っていなかったので、驚くと同時に鼓動が跳ね上がった。
(これは…参ったねぇ)
男に一目惚れしたか。顔が好み云々を差し引いても、非常に興味をそそられる。
一生懸命に生徒の名を呼び、返事をすればにこりと微笑んで出席簿をつける。笑うとまた、一段と可愛らしかった。
「では改めて、猿飛佐助!」
「はい。真田センセ、よろしく」
つまらないだけの学校で見つけた、初々しい獲物。
この機会を逃す手は、ない。