学園祭-前半-(20)
□政宗×幸村
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「あ、すまなんだ。こんな所で油を売っている訳には」
「(こんな所って、テメェ)…どっか行くところだったのか」
「夕餉の食材を買出しに。今日は父上が戻られぬので」
隣家、真田家は男ばかりの3人家族だった。
父と、ひとつ上の兄。どちらにも政宗は会った事があるが、幸村と同じく心優しい父と違い、ひとつ上の兄は政宗でさえも舌を巻く程の毒舌ぶり。顔はそっくりだというのに、この差はなんだと思ったほどだ。
その兄も同じく大学生であるが、ここから遠く離れた都心の大学で学んでいるためひとり暮らしで家を離れている。
実質、父と幸村だけの生活では何かと不便があるだろうと、政宗の家で作りすぎたものを裾分け(時に幸村の顔見たさに、わざと)することもある。幸村は料理が不得手だと言っていたから、その役割は父が担っているようだった。
「出張か?」
「いえ、社員旅行でござるよ」
最後までごねられましたがな、と幸村は笑った。父の、この次男に対する溺愛ぶりは見ていてイラッとする程甘ったるい。
一人にしたくないとか、どうせそんな事を言って旅行に行かないつもりだったのを諭したのだろう。可愛い顔して言うことは言う、それが幸村。
「ならうちで食ってけばいいだろ。まだ小十郎もメシの支度してねぇ筈だぜ」
「それはありがたいが…」
小十郎、と家政夫(だと政宗は思っている。本当は県議会議員の父の秘書だ)の名を出すと幸村の表情が曇った。
「……人参は残すな、と申されるので…」
「Hahaha!そりゃアンタが悪いんだろう」
毎日食卓に人参が並んでるわけじゃねぇよ、と大の人参嫌いに苦笑してみればそうでござるなと納得がいった様だ。
こういうところが、年上でも可愛いと思ってしまう部分でもあったり。
「政宗君は大丈夫でござる?」
「オレに遠慮たァ野暮だぜ幸村」
じゃあお言葉に甘えて!と簡単に政宗の罠に引っかかる単純さもまた、政宗を惹き付ける所以である。