学園祭-前半-(20)

□佐助×幸村
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「いい?旦那」


もう一回言うから、ちゃんと聞いててよね。

そう言いつけてる間にも、目の前の生徒は上の空。というか、まっすぐとある一点だけを見詰めていた。そのまっすぐの視線上に居る猿飛佐助は、生徒の熱視線に負けることなく根気強く教鞭を振るっている…

というのは冗談で、ここは学校じゃなければ塾でもない簡素な高校生の部屋。隣家に住む中学生を相手に、半年ほど前から勉強を教えていた。

ひとつ下の従弟、幸村。佐助が立って歩くようになってから生まれてきた彼を、もうどれぐらい前からだろう。多分幼稚園くらいの時だろうか。その辺りから恋心を抱き始め、佐助が中学2年の時に告白した。返事は今の状況を見れば一目瞭然、結果オーライだ。以来2人で愛を育んできた訳だけれども、現在危機的な状況に置かれている。

そもそも、その危機というのは幸村の高校受験。佐助が進学した高校は、地元の中でもかなりレベルの高い進学校であった。おれも佐助と一緒の高校に行きたい!と散々ゴネた訳だが、残念ながら幸村の成績では少々無理があった。数々のスポーツ校から特待生推薦を受けていたが、それを全部跳ね除けての高校受験。それがどれほどのリスクを背負うか、あんた分かってんの?なんて言った所で聞いてなんてくれない。

だって、ほら。

今も佐助の顔しか見ていない。


「ちょっと、聞いてんの?」

「う、うん。聞いておるぞ」

「嘘ばっかり。さっきから俺様の顔ばっか見てるじゃない」

そんなに見られたら穴開いちゃうよ。だらんと垂れた長い前髪を掻き上げながら、呆れたように言う。

「俺様のこと見てる暇あったら、ちゃんとお勉強しなさい。同じ学校入れなくてもいいの?」

「やだ!それはいやだっ!」

だって、佐助と一緒じゃなきゃ寂しいでござるもん!なんて可愛いこと言われた日には、頭のひとつでも撫でて接吻を…なんて甘い話にはならない。

幸村が同じ高校に来てくれるというならば、それは願ったり。だからこそ佐助は心を鬼にして幸村に接していた。決して手を上げたりはしないけれど、学校が休みの土日なんかも勉強詰めで久しく触れ合っていない。実は身体の関係まで出来上がっちゃったりしている。なのに、よくもまぁ理性が持つものだと思う。男として当然、無防備な恋人が目の前に居ればムラッとだってする。今だって、どれだけ天使と悪魔が戦争しているか。

(分っかんないだろーな…旦那には)

念を押され、やっとテキストに向かう気になった幸村を見ながら、ふぅ…と溜め息を吐く。

とにかく幸村の頑張りに期待するしかない。前期試験は十日後、ここで踏ん張らなければ今までの努力が水の泡になってしまうだろう。特に物覚えが悪い訳ではないけれど、そそっかしく覚えてしまうので問題を読み間違える事も多く、特に国語や英語の文系は苦手な分野だった。それがし、体育ならば自信があるのに。我儘言ってんじゃないよ、ウチの学校そんな試験無いから。その問答も何度したか分からない。成績の順位は上がってきているし、あとはこの、集中力の無さだけどうにかしなければ。

 
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