学園祭-前半-(20)

□小太郎×幸村
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「うう〜……
今日は散々でござるぅ」



ぽてぽて歩く足取りに元気は無く、チャームポイントの尻尾もしんなりと萎れていた。


昼飯時の前、4時限目。

寄りによって生物の授業で解剖学とやらを学ばされた。ただでさえ血を見るのは苦手だというのに、その授業は教科書の中ばかりでなく実践までやらされたのだ。クラスメイト皆沈んだ表情で(しかし、担当のマッドサイエンティストはうすら寒い笑みでメスを操っていた)約一時間の授業を終え、今は落ち着く昼休み。

悪いんだけど今日は、部活で校欠だからといつも弁当を一緒に食べてくれる従兄が居ない。仕方なく売店で買ったパンを持って、日当たりのいい中庭まで出て来てみた。このままでは午後の授業も鬱々したまま過ごしてしまいそうだったから、気分転換も兼ねて。少し遅れて到着したものだから、ベンチはすべて埋まっていた。しょうがない、あの木陰で食べようか。近付いていったその時。


ドカッ!!


「ふぎゃっ!」


目の前が真っ暗になったと思ったら、何かが上から降ってきた。反動でバランスを崩した身体は真後ろへ一直線、芝生の上にばたりと倒れ込む。

「あぅあぅ…
一体何事でござるか……」

広葉樹の隙間から覗く太陽に目を焼かれ、後頭部を打ったお陰で頭もクラクラする。踏んだり蹴ったり、今日は厄日でござる。そんな事を思いながら身体を起こした高校生、真田幸村は落ちてきたものの姿に驚いた。

「………人?」

「………」

その落ちてきた"もの"ではなく、幸村と同じ制服に身を包んだ学生は黙ったまま幸村を見下ろしていた。まさか木の上から人が落ちてくるなんて。

その人は前髪がうんと長くて、表情がまったく分からなかった。さて、このような人間は同じ学年に居ただろうか。

「?」

「………、」

黙って差し伸べられる手。大丈夫か、とでも言っているのだろうか。その手を取って、幸村は立ち上がった。

売店で買ったパンだけは被害を免れたようだ。これで中身が出ましたなんて話になったら、さっきの授業を思い出してしまう破目になっていただろう。運がいいのか悪いのか、なんだかよく分からない。

 
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