学園祭-前半-(20)

□慶次×幸村
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「恋はいいよー幸ちゃん。絶対した方が良いって」


お得意の台詞を、この初心なクラスメイトに言ってやるのも何度目だろうか。


例の如く2人で昼食を摂っていた昼休み、後ろの席に座っている幸村にしきりに話しかける。

やれ団子だケーキだと話しかければすぐさま飛び付いてくれる幸村が、恋の話となると顔を真っ赤に染めて俯いてしまうのだ。いい加減、高校生にもなって恋花のひとつでも咲かせないと、人生損だよ?と説いているのに、中々に頑固者な彼は未だに浮いた話が上がってこない。

ここが男子校であるが故に共学より圧倒的に出会いは少ないけれど、通学する道すがら他校の生徒には会っている筈だ。機会が無いなんて言わせない。

かく言う本人も今は独り身。だが他人の恋路を応援するのも悪くない。そんなお節介が件のクラスメイトには大迷惑だというのに、慶次は悪い癖を止められないでいた。


「…慶次殿の仰る事がよく分かりませぬ」

「恋した事ないから、そんなコト言うんだよ」

パックのいちご牛乳を啜りながら、幸村は渋面を作った。お止めくだされ、折角の弁当が不味くなる。とうにデザートに取りかかっているからそうは言えないけれど、この男の口を塞ぐにはどうしたら良いものか。

「それ以上言うなら、フォーク刺しますぞ」

本当は桃に突き刺す筈だったフォークの先を慶次に向けて威嚇する。えー、それは勘弁だよ!と両手を挙げて降参したけれど、どうせ明日には忘れるのだ。

また同じ顔で(当然だけど)同じ言葉を言って、幸村を困らせる。その繰り返し。いい加減嫌気が差してきたけれど、人の良い幸村は無視なんて出来ない。

「それに慶次殿。それがしに言って頂かなくても他の人に、」

「いーや!俺はね、幸ちゃんだから言ってるの」

だって幸ちゃん、男に告られてばかりだろ?と最も触れて欲しくない地雷を踏まれ、ドスッと桃に凶器が刺さる。そんな武勇伝など要らない。

入学してこの方、言い寄る男の数は両手では足りなくなった。しかも大体がおっかない顔した上級生ばかりで、お断りするのにも結構気を遣う。この学校にだって恋をする為に来たわけじゃないし、学生の本分とは何か、慶次のように皆勘違いしているのではないだろうか。

「じゃあ…どう?
俺と恋してみるかい?」

「け、慶次殿と恋ぃ!?
ははは…破廉恥極まりない!!」

「ッだ!痛ってぇ!!ホントにフォーク刺した!!」

冗談だってのに!と今更フォローしたところで時既に遅し。破廉恥な慶次殿など知りませぬとさっさと弁当を片付けて、スタスタと教室を出て行ってしまった。

 
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