学園祭-前半-(20)

□元親×幸村
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「…チッ……またかよ」



長曾我部元親は学校に登校するなり、朝の爽やかさとは程遠いどんよりとした空気を背負って立ち尽くした。

その視線の先で、元親が気になって…なんて生っちょろいものではなく、いっそ愛してるとさえ言えるであろう真田幸村がにこにこと笑顔を振りまいている。彼の笑顔は元親を元気にしてくれるものに違いないけれど、それが元親以外の男に向けられているというのなら話は別だ。

やたらと豪奢な門の前で、職務怠慢もいいところな警備員と何やら話し込んでいる。片倉小十郎、それがあの警備員の名前。これは直接聞いたのではなくて、幸村から聞いた話だ。いつの間にそこまで仲良くなったのか、どこに住んでるのかも知ってるという。そのあたりも自慢げに話してくれたが、元親にとってどうでもいい話だったので態々内容までは記憶してなかった。

俺はあの警備員じゃなくて、お前の話が聞きてぇんだ。幸村とはもう十年近い付き合いだけれども、どうもあちらは"幼馴染"としてしか元親を見てくれていないようだった。それはそうだ。別に好きだとも告白した覚えはない。

友達よりも少しだけ上に居られるだけ、まだいいのだろうか。想いを告げたとしても、受け入れてくれる勝算はゼロに等しい。

「馬鹿者、邪魔だ退くがよい」

「いだッ!!」

後頭部に鋭い打撃を受け、患部を擦りながら元親は振り返った。そこに居たのは元親並みに不機嫌顔をしたクラスメイト、毛利元就。少し前まで生徒会長を歴任していた学校一の秀才だ。頭の中身と顔はいいけれど、口からは毒しか出てこない。

「おや?幸村ではないか」

「あ、おいっ…!」

元親が止めるより先に、スタスタと未だ警備員と話し込んでいる幸村に近付いていく。そう…あの男も元親にとっての敵。

たまたま幸村と一緒の下校途中、出くわしてからというもののずっとあの調子だ。可愛いな、名前は?まさかあの男の口から可愛いなんて言葉を聞けるとは思っていなかったけれど、元親のクラスメイトだと言えば幸村はすぐに懐いてしまった。

まったく、この幼馴染の無防備さというか、お人好しなところは昔っから変わらない。

「幸村、おはよう」

「あ!元就殿、おはようございまする」

ほらまたそうやってニコニコと。スマイル0円、安売りしすぎだ。朝一から機嫌の悪くなるような出来事、今日はこのまま帰ってやろうかと思ったけれど、生憎今日は外せない授業がある。仕方なしに校門を潜ろうとすると、元親の姿に気付いたのか幸村が駆け寄ってきた。

「ちか兄!おはようでござる!」

「…ああ、おはよう」

ちか兄。幸村は元親のことをこう呼ぶ。2つの年の差があるから仕方ないかもしれないが、幼馴染なんだから呼び捨てでいいと言っても聞いてはくれなかった。ちか兄と呼ぶのは、ダメなのでござるか?としょんぼりされてしまった日には、駄目だなんて言える訳がない。

「今日、」

「なんだよ?」

「お弁当…一緒に食べてもいいでござるか?」

こいつは小悪魔か。実は元親に好意があるのを知っていて、こんな悪戯を仕掛けてきているのではないか。今に尖がった尻尾が生えてくるんじゃないか。天然でも小悪魔でも、どちらにせよ性質が悪い。

クラスメイトと警備員の嫉妬の視線が刺さる中、いいぜ、とだけ言うと幸村の頭をぽんと叩いて校舎へ入った。学年が違うから、朝はここで別れなければいけない。

あれが授業中はどんな風にしているのかは知らない。多分、休み時間あたりは間食してそうだと思うが…それ以外はまったく判らなかった。クラスメイトとどんな会話をして、何をして過ごしているかなんて。だからこそ余計な事ばかり考えてしまって、自分のほうが授業中イライラしている時もよくある。

(昼…俺、今日学食の予定だったんだな)

いつものコンビニ飯も飽きたと、今日は自宅近くのそこへも寄ってこなかった。幸村はお約束の弁当だろうけど、元親のために学食まで付き合ってもらうしかない。できればもっと人気の少ないところで話をして、折角の昼休みぐらい有意義に過ごしたいのだが…天に見放されたのか、よりにもよって今日だとは。

まぁ仕方ねぇか。ぼそりと呟くと慣れた教室へと入っていった。

 
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